なぜ米俳優ストライキは交渉決裂したのか ─ 両者の声明に食い違い、問題となった修正案

全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)の交渉が決裂した。AMPTP側が先行して発表した声明に対し、SAG-AFTRA側は反証の声明を発表。両者の溝は思ったよりもずっと深いようで、ストライキは当分収まらない印象だ。
AMPTPによる声明では、賃上げや福利厚生について行った12件の改善オファーの内容が、具体的な数値とともに記されていた。例えば、「過去35年間で最高となる最低賃金の引き上げを行う。これによって契約期間中の賃金には7億1,700万ドルが、年金・健康保険への拠出金には1億7,700万ドルが追加されることになる」「高予算のSVOD企画での主要な役(ゲストスター)の給与を58%引き上げる」といったものである。
AMPTPによれば、SAG-AFTRAはこうしたオファーを拒否。そればかりでなく、争点の一つであるストリーミングサービス作品の視聴者数に基づく追加報酬について「年間8,000万ドル以上」の支払いを要求しており、これが「耐え難い経済的負担」であるとしていた。
これに対し、SAG-AFTRAは真っ向から対立する内容の声明を発表した。「彼らはストライキ開始前に提示したよりもショッキングなほどに低い金額を提示してきたにもかかわらず、我々は誠実に交渉してきた」というSAG-AFTRAによれば、AMPTPの声明文に記された金額は「60%も誇張」されたもので、「プレスに向けた意図的な詐称」であるとされる。こうした行為について、SAG-AFTRAは「いじめ的な戦略だ」と糾弾した。
AIの利用制限についても食い違う。先に出されたAMPTPの声明では、事前の同意や説明なしに役者のデジタル・レプリカを使用しないと約束するものだったが、SAG-AFTRAは「演者の同意を守ると主張しながら、全ての映画ユニバース(または、あらゆるフランチャイズ企画)において、初めから演者のデジタル・レプリカの使用同意を求め続けている」と訴えた。
AMPTPはSAG-AFTRAに再考を求めていたが、SAG-AFTRAは一歩たりとも譲らない姿勢を声明の中で示している。
「企業側は、WGA(※脚本家組合)に行おうとして失敗したのと同じ戦略を用いている。組合員を騙して団結力を無くし、交渉担当者に圧力をかけるため、誤解を招く情報を流しているのだ。しかし、脚本家の皆さんと同じように、我々組合員はより賢明であり、騙されることはない。
我々は、我々の組合員、ストライキ・キャプテン、IATSE、チームスターズ、ベーシック・クラフトの組合、そしてこの業界の全て人々に対して、企業側が与えてきた痛みを感じている。彼らによる妨害、そして貪欲さに屈服するため、我々はあまりにも多くの犠牲を払ってきた。我々は団結し、今日も、明日も、そして毎日交渉するつもりでいる。
我々の決意は揺るがない。全国のピケや連帯イベントに参加して、あなたの声を届けて欲しい。」
この声明のほか、SAG-AFTRAの交渉担当者であるダンカン・クラブツリー・アイルランドは米Deadlineの取材に対し、AMPTP側がストリーミングサービスに関する報酬支払いについて譲歩しないのだと話している。SAG-AFTRAはAMPTPの要求に基づき、2〜3日かけて練り直した「登録者数を基準とする」新たな修正案を提出したが、AMPTPは「交渉から手を引く」反応に至ったという。また、「私たちはストライキの終結を望んでいるが、それは公平な条件でなくてはならない」とも述べた。
Netflixのテッド・サランドス共同CEOが明かしたところによれば、SAG-AFTRAの修正案は、ストリーミングサービスの登録者に追加課金を求めるというもの。「遠すぎる橋だ」と、サランドスは両者の主張があまりにもかけ離れている様子を表現した。
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Source:SAG-AFTRA,Deadline(1,2)