『アド・アストラ』監督、ブラッド・ピットの演技が良すぎて宇宙の無重力を無視していた

俳優ブラッド・ピットが初めて宇宙映画に挑んだ『アド・アストラ』は、美しい映像表現による宇宙の描写とともに、消えた父親を探す宇宙飛行士ロイ・マクブライドの内面に深く潜っていく作品だ。あらゆる感情を抑圧する主人公の心理を、ピットは表情や視線のささいな変化によって巧みに表し、「キャリア史上最高の演技」とまで評されている。
本作を手がけたジェームズ・グレイ監督は、ピットの演技に感銘を受け、あえて“現実的にはありえない”選択を取っていたという。米IndieWireにて、グレイ監督は、無重力の宇宙空間でロイが涙するシーンについて振り返った。撮影中、ピットは実際に涙を流し、カメラは涙が頬を伝っていく様子を捉えていた。その後、ピットは監督にこう告げたという。
「(ピットから)“涙はCGに変えないとね、実際の無重力だとこうはならないから”と言われました。だけど僕は、“ごめん、このまま行きます。演技が良すぎる”と答えたんです。」
もしも無重力下で涙を流せば、涙は頬を伝うことなく、水滴となって辺りを漂うはずである。しかし『アド・アストラ』本編では、無重力下にもかかわらず、涙がピットの頬を伝っていくシーンが存在するわけだ。ここでグレイ監督は、科学的に正しいことよりも、ピットが示した主人公ロイの内面をストレートに切り取ることを重視したといえる。

これまでグレイ監督は、直球のメロドラマである『エヴァの告白』(2013)、ドストエフスキーを原案とした恋愛劇『トゥー・ラバーズ』(2008)、警察とマフィアの兄弟を描いた『アンダーカヴァー』(2007)など、ジャンルをまたいで人物の内面や心理を掘り下げる人間ドラマを作り続けてきた。その作風や、俳優のリアルな演技を引き出す演出は、自身初の大作映画となった『アド・アストラ』にも引き継がれている。まずは人物の心理表現を優先するという判断は、監督のフィルモグラフィから考えても筋の通ったものといえるだろう。
なおピットは、抑え込んだ内面をのぞかせる“静の演技”のみならず、激しいアクションによる“動の演技”にも挑戦。無重力でのアクションはもちろんのこと、高所から地表へと降り立つ冒頭のシーンに至るまで、ありとあらゆるスタントを自分自身で演じたがったという。本人の希望が叶わなかった箇所もあったようだが、監督はピットについて「すごい勇気の持ち主」だと述べている。
「彼はオープニングのスカイダイビングを自分でやりたがったんです。“僕がやる”と言うので、“良い考えとは思えない、別の人にやってもらおう”と言いました。人が死にかけるだけの価値がある映画なんてありません。だから僕はスタントパーソンの仕事を見るのが好きじゃなくて、いつも布越しに見なきゃいけないような感じなんですよ。」
映画『アド・アストラ』は2019年9月20日(金)より全国公開中。
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Source: IndieWire