『バービー』劇中、「何にも繋がらない」シーンをグレタ・ガーウィグ監督が死守した理由

マーゴット・ロビー主演、『バービー』が全世界で記録的ヒットを博している。実は本作では、とある重要なシーンがカットされそうになったため、監督のグレタ・ガーウィグがこだわり抜いて守っていたことがあったそうだ。ガーウィグ本人が米Rolling Stonesにて、その経緯について明かしている。
この記事には、『バービー』の内容に触れています。

『バービー』は、すべてが完璧な世界バービーランドでハッピーに過ごしていたバービーが、突然体に異変を感じ、人間世界へ旅する物語。バービーランドでは考えられない事が次々に起こり、そのギャップに戸惑うばかりのバービーがベンチに腰掛けると、隣には老女が座っている。
バービーは彼女に「あなた綺麗ね」と声をかける。この老女は名もないキャラクターだが、演じているのは1960年代から数々の映画で活躍してきた衣装デザイナーのアン・ロス。『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)と『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)でアカデミー衣裳デザイン賞を受賞したロスを、ガーウィグは「レジェンド」と讃えている。
シンプルながらも穏やかなひと時が流れる当シーンは、「他のどのシーンにも繋がらないから」という理由から、カットしてはどうかと提案されていたそうだ。「カットしても、実際、物語は同じように進みますよ」との提案を、ガーウィグは「このシーンをカットしたら、何の映画なのか分からなくなってしまう」と拒否。ガーウィグにとってこのシーンは「作品の心臓」なのだという。
「マーゴットがこの場面を演じている様子は、とても優しくて、何にも強制されないものでした。『マテル社があなたにこんなことをさせるなんて信じられない』『ワーナー・ブラザース社がこんなことをさせるなんて信じられない』とみんなから言われるような、奇怪な要素がこの映画には多々あります。だけど私にとって、信じられないって思うのは、どこにも繋がらない、小さな行き止まりみたいな部分が、この映画にはまだあるってことです。」
過去の数々の名作へのオマージュはもちろん、歴史や政治、カルチャーなど様々な文脈での解釈が可能な『バービー』だけに、どのシーンにも含みや伏線が張り巡らされているように感じてしまうが、ガーウィグは当シーンがどこにも繋がらないことを踏まえた上で、「このシーンをカットしてしまったら、どうしてこの映画を作っているのか分からない。このシーンがなければ、私が何をやってきたのかも分からない」と主張している。
The New York Timesのインタビューでガーウィグは、当シーンを「お母さんやおばあちゃんが『ハニー、あなたは大丈夫よ』と言ってくれるような、私が必要だと感じ、他の人にも与えたいと思う気持ち」なのだと語っている。
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Source:Rolling Stones