『バービー』グレタ・ガーウィグ監督来日インタビュー「次代の女性監督に繋ぎたい」 ─ 騒動にも言及

──気が早いかもしれませんが、本作がこれだけ成功したことを経て、次なる目標はなんですか?
次の目標ですか?40代に突入するので、今のところはしばらく健康でいられればと(笑)。私の家には、4際の息子と、まだ5ヶ月の赤ん坊がいます。だから次の目標は、子どもたちとの時間をたっぷり過ごすこと。それから、睡眠を取ることかな(笑)。
──(笑)。さて、難しい質問をさせていただきます。アメリカでの“バーベンハイマー”のミームについて、現在の日本国内で起こっている出来事です。つい先ほど、アメリカのワーナー・ブラザースから謝罪文が発表されました。私たちは、これがあなたの意図したものでもなく、もちろんあなたによって作られたものではないことを理解しています。非常にセンシティブで、複雑な話題です。ただ、あなたのことを、そしてこの作品やキャストをサポートしたい人々がいます。そこで、こう聞かなければなりません。この問題について、あなたはどう考えていますか?
(神妙な面持ちで)ワーナー・ブラザースが謝罪したことは、私にとって非常に重要なことです。発表がなされたことは、とても重要なことだと考えています。
──わかりました。回答ありがとうございます。それでは、通常の質問に戻ってまいります。この映画『バービー』には、たくさんの皮肉やジョークが込められていて……(グレタがまだ少し緊張しているような様子を見て)、オーケイ、もう簡単な質問に戻りますので、どうか力を抜いてください。
(グレタ、「オーケイ」と微笑み、少し力を抜く。)
──本作の皮肉の中でも僕のお気に入りは、現実世界に登場するマテル社の人々や、オフィスのデザインです。あれは最高に皮肉が効いていると思います。特にオフィスのデザインは、冷たくて無機質で、異端な雰囲気がありました。あのデザインはどこに着想を得たのでしょうか?
あのオフィスのデザインは、ジャック・タチというフランスのフィルムメーカーからの影響です。彼の『プレイタイム』(1967)という映画に、パーティションで仕切られたオフィスが登場するのですが、そのプロダクション・デザインへのオマージュなんです。マテル社のオフィスは、劇中ではバービーの世界と現実世界の狭間に登場する場所なので、角張った、人工的な空間に演出したかったんです。二つの世界の橋渡しであるように。鑑賞される際に意識していただければ、「ジャック・タチっぽいな」と気付かれると思いますよ。
──過激すぎてカットしたジョークはありましたか?
初期のカットでは、曖昧すぎたために外したジョークがありました。過激なジョークというより、曖昧すぎるジョークです。19世紀の科学者マリ・キュリーに関するジョークがあったんですけど、細かすぎて伝わらないからやめました(笑)。でもそれ以外は全てカットせずに残しています。そういうアナーキーでワイルドなところが、この映画の持ち味ですから。
──最初にバービーが実写映画化されると聞いた時は、“『LEGO ムービー』や『トイ・ストーリー』のガールズ版になるのかな”なんて想像しましたが、全く違いましたね。そこには女性の活躍やフェミニズムについての、力強くポジティブなメッセージが込められていました。こうしたテーマを描くことの重要性については?
バービーには、他のどんなオモチャや無生物よりも優れたところがあると思います。彼女が登場したのは1959年なので、64歳ということになりますね。彼女は複雑で、身体にパーツを持った存在で、女性がクレジットカードを持てるようになる時代よりも先に宇宙に行っているんです。同時に、もしもバービーの身体を生身の人間に置き換えたら、二本足で立てないというプロポーションでもある。バービーとはそういった、常に複雑性がある存在です。だから、その複雑さを描くのは必然だろうと考えました。
彼女はいつの時代でも、どこへ行っても、さまざまな感情を生み出します。私たちは、そういった混乱と対立するのではなく、それを抱きしめたかったのです。
──しかしあなたは、バービーだけではなく、ケンにもきちんとアイデンティティ確立の物語を与えました。この映画について語られる時、女性エンパワーメントやフェミニズムの側面が題材となることが多いですが、男性の観客にも観てほしい理由はなんですか?
本作はケンの物語でもあります。おっしゃるようにアイデンティティ確立の物語ですね。バービー・ランドという真逆の世界で、ケンはバービーの後ろに隠れて作られた、バービーの人生におけるアクセサリーのような存在でした。だからケンの物語は、バービーとは別のところでアイデンティティを見つける旅にする必要があった。私たちが探究したかったのは、全てのヒエラルキーはその個人の人間性を否定し、人を破壊しうるものだということ。だから、バービーと同様にケンのことも描きこみたかったんです。

──最後の質問です。これまで観客から受けた反応の中で、最も嬉しかったものはなんですか?
そうですね、本作にはたくさんのジョークが込められていて、中には皆さんが理解できないようなものもあるかもしれません。あるジョークでは、マテル社CEO役のウィル・フェレルが「プルースト・バービーは全然売れなかった」と言うものがあります。映画が封切られた時、ニューヨークの映画館で音量チェックをしていたのですが、観客の誰かがこのジョークで大爆笑していて。「よかった、わかってくれる人がいた!」という感じで、それが一番嬉しかったですね。ジョークで笑ってくれる人が実際にいる、ということが嬉しかった。
──ありがとうございます。最後にもう一つだけ。『ナルニア国物語』実写映画化の監督に就任されましたね。今のご状況は?
あぁ、そうなんです。まだ、先のことになるかな!今はまだ『バービー』を送り出してる途中なので、その後のことになると思います。
──まだ脚本も来ていない?
来ていないです。まだ未来のことです。すごく楽しみですが、緊張もしています。
──どうもありがとうございました!
こちらこそ、どうもありがとうございました。

映画『バービー』は2023年8月11日、日本公開。