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『ブラックパンサー』アカデミー賞3部門獲得の衝撃 ─ ヒーロー映画史上最多受賞&ふたつの史上初受賞

ブラックパンサー
Black Panther (2018) Directed by Ryan Coogler ©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

「もしかして作品賞もありうるのではないか」

2019年(第91回)アカデミー賞において、マーベル・シネマティック・ユニバース作品『ブラックパンサー』(2018)は、そんな思いすら抱かせるほど印象的な躍進をみせた。最多4部門受賞となった『ボヘミアン・ラプソディ』に続き、作品賞を射止めた『グリーンブック』や外国語映画賞・監督賞を獲得した『ROMA/ローマ』に並んで、作曲賞・美術賞・衣装デザイン賞の3部門受賞を果たしたのである。これによって、『ブラックパンサー』はアカデミー賞史上もっとも多くのオスカー像を手にしたヒーロー映画となっている(本記事時点)。

過去、ヒーロー映画としてアカデミー賞に輝いた作品のうち、これまで最多受賞記録を保持してきたのは『ダークナイト』(2008)と『Mr.インクレディブル』(2004)。前者は助演男優賞(ヒース・レジャー)と音響編集賞、後者は長編アニメーション賞と音響編集賞を受賞している。今回、受賞した部門がまったく異なるところにも注目したい。

作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞

『ブラックパンサー』で作曲賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンは、本作を手がけたライアン・クーグラー監督とは『フルートベール駅で』(2013)、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)と常に創作をともにしてきた。1984年生まれの34歳で、チャイルディッシュ・ガンビーノなどの楽曲製作を手がけるなど、音楽プロデューサーとしても秀でた才能を発揮している。

授賞式においてルドウィグの名前を読み上げたのは、『ブラックパンサー』でエリック・キルモンガーを演じたマイケル・B・ジョーダンと、『クリード』シリーズのテッサ・トンプソンだった。壇上でルドウィグは、ライアンに「君との仕事を心から誇りに思います」と述べた。「12年前、USC(南カリフォルニア大学)の寮の部屋にいた時のことを思い出します。君の初めての短編映画で、僕は曲を書きました。12年経って、いま僕たちはこの場所に来ています」

美術賞を受賞したハナー・ビーチラーは、ライアン監督作品『フルートベール駅で』のほか、『ムーンライト』(2016)で美術を担当。アフリカ系アメリカ人としてアカデミー賞の美術賞にノミネートされたのは、ハナーが史上初めてとなった。スピーチで、ハナーはライアン監督をはじめ、マーベル・スタジオのプロデューサーや出演者、ともに舞台裏で活躍したスタッフたちに感謝を述べている。

「私が強くなれたのはライアン・クーグラーのおかげです。彼が私を、よりよいデザイナーであるだけでなく、よりよいストーリーテラー、よりよい人間にしてくれました。この人が私の人生を変え、私に安心できる場所を与えてくれたのです。彼は寛大で、私が自由にできる場所、思いやり、兄弟のような愛情を与えてくれたのです。それから、ベストを尽くす機会をくださったマーベルのみなさんのおかげでもあります。この映画のビジョンを、私たちを支えてくださいました。[中略]これからやってくる、決してあきらめない人々に、次は私が強さを与えていきます。」

作曲の裏側に迫る

そして衣装デザイン賞を受賞したのは、『マルコムX』(1992)と『アミスタッド』(1997)で2度のノミネート経験をもつルース・E・カーターだ。22年ぶりのノミネートで初受賞となったが、衣装デザイン賞を獲得したアフリカ系アメリカ人女性はルースが史上初。『マルコムX』を手がけたスパイク・リー監督が『ブラック・クランズマン』で授賞式に参加するなか、悲願の受賞を果たした。「ここまで長い道のりでした。スパイク・リーに感謝します、この賞を誇りに思ってくださるとうれしいです」。中継では、この言葉に客席からスパイクが反応する様子も捉えられている。

「マーベルは初めての黒人ヒーローを生み出したのかもしれません。でも私たちは衣装のデザインによって、彼をアフリカの王にしたんです」。キャスト&スタッフやライアン監督に感謝を述べたあと、プロデューサー陣に対しては、彼女はこんなユーモアも忘れていない。「衣装にヴィブラニウムを付けるのは、とってもお金がかかるんですよ」。

惜しくも作品賞は逃したものの、きっとヒーロー映画のファンならば、アカデミー賞の作品賞候補として『ブラックパンサー』が紹介される様子はとても感慨深かったにちがいない。それから『ブラックパンサー』の関係者たちが、壇上でのスピーチを見守る様子にも思わず心打たれるというものだ。

『ブラックパンサー』の3部門獲得は、たしかにヒーロー映画の歴史を変えることになった。これにつづく作品がどの映画になるのかはまだわからない。しかし、ヒーロー映画にとっても、あるいはアカデミー賞にとっても、ここから新しい展開が切り拓かれていくことはすでに約束されたといっていいはずだ。

Source: Deadline(1, 2

 

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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