『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のテーマは「逆境」と「前進」

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、疑うべくもなく、MCU史上もっとも困難な続編だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)までブラックパンサー/ティ・チャラを演じてきたチャドウィック・ボーズマンが、2020年8月に逝去したことを受け、本来構想されていた続編は叶わなくなった。
前作『ブラックパンサー』(2018)が描き出したのは、ワカンダの若き国王となったティ・チャラが父の跡を継ぎ、複雑な歴史や世界との関係に挑む物語だった。乗り越えるべきハードルは、本来は同胞であるエリック・キルモンガーが、王座を狙う“外国からの敵対者”として現れることで表現されたのだ。監督・脚本のライアン・クーグラーは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を経た続編で、ワカンダとティ・チャラの新たな物語を描く想定だった。
チャドウィック不在の続編を作るにあたり、クーグラー監督は「どうにもならないような逆境を前に、私たちはいかにして前進するのか」という問いを立てたという。それはまぎれもなく、この映画そのものの課題であり、チャドウィックを失った家族や友人、フィルムメーカーにとっての課題であり、そして未曾有のコロナ禍に見舞われた世界の課題でもあった。英Empireにて、監督はこう口にしている。
「不幸なことに、この問いかけはどんどん同時代的な意味を帯びていきました。人類すべてにとっても、この作品に復帰した人々にとっても。僕たちの兄弟(チャドウィック)を失って、本当に切実な問題になったのです。」
チャドウィックの逝去を受け、マーベル・スタジオはティ・チャラの代役を立てないことを決定。本作は『ブラックパンサー』の名を冠してこそいるが、タイトルロールとなる人物がいない世界で幕を開けるものと思われる。
かわりにバトンを担うのは、ティ・チャラの妹シュリ(演:レティーシャ・ライト)、母親のラモンダ(演:アンジェラ・バセット)、ワカンダの仲間であるエムバク(演:ウィンストン・デューク)やナキア(演:ルピタ・ニョンゴ)、オコエ(演:ダナイ・グリラ)たち。強力な俳優陣を、クーグラー監督は「いまや俳優たちというよりも、チャドがボーカルをやっていたバンドのメンバーたちのよう」と形容する。「だから僕は、彼らが再び立ち上がって歌える歌を作らねばと思いました」。
『ブラックパンサー』以来の登場となるナキア役のルピタ・ニョンゴは、続編について「疑いはなかったけれど、恐怖はあった」と告白する。あらかじめ“ティ・チャラありき”の続編について聞かされていたニョンゴは、チャドウィックの逝去を受け、続編が「想像できなくなった」というのだ。しかしその後、監督による新たな構想を知ったニョンゴは涙を流したという。「ライアンが教えてくれたのは、本当に誠実で美しいアイデアでした」。
報道によると、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の上映時間はMCU史上2番目の長尺となる2時間41分。単独映画としては過去最長となるが、本作が眼差すテーマを鑑みれば決して不思議な長さではないだろう。
クーグラー監督は「成熟とは、不可能な問いに対峙してもなお選択し、前進すること」だと語る。いわく、続編の内容はチャドウィックの生前に考えていた当初のアイデアと「精神的には非常に近い」ものになったとのこと。いったい何が描かれるのか、私たちは何を観ることになるのか。
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は2022年11月11日(金)より全国公開。
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Source: Empire