『名探偵ピカチュウ』バリヤードのシーン、カットされる可能性あった ─ 超困難な映像化のウラ側、パントマイム芸人も参加していた

© 2019 Pokémon.
ほぼ一人芝居、撮影の困難
ティムとピカチュウがバリヤードを取り調べるシーンの撮影は、事前に想像されていた以上にハードなものだった。ジャスティス以外に現場に存在したのは、椅子とランプ、そしてCGのバリヤードに置き換えられるモーションアクターのみ。彼はバリヤードの約2倍の身長があったため、ジャスティスが目線を合わせて演技ができるよう、腹部にバリヤードの目玉が取り付けられていたという。
ロブ監督は撮影現場の様子を思い返して、「ジャスティスと顔を見合わせて“こりゃダメだ、数秒間のシーンにしよう”と言ったのを覚えています」と語る。「すごく心地の悪い撮影でした。再現しろと言われたら(コダックみたいに)爆発しますね」。
実際のところ、監督は編集作業の早い段階からバリヤードの取り調べシーンをカットしようとしていたことを明かしている。ピカチュウやバリヤードを描くアニメーターに気を遣ったのではなく、「絶対に成立させられない」という強い確信があったというのだ。ところが意外なことに、プロデューサー陣がこのシーンを残すことに粘りを見せた。それゆえ監督はシーンの製作を続行し、その結果、思わぬ反応を目の当たりにしたのである。
「(製作中のシーンを)いろんな方々にお見せしたら、みなさん夢中になるんですよ。みんなが大笑いしてくれて、普通じゃない反応でしたね。抜きん出たシーンになったと思います。試写では歓声が上がったんですが、それも変な感じでした。」
ちなみに撮影の段階では「カットされると思っていた」ジャスティス・スミスも、今ではこのシーンについて「大好きなシーンです」と語っている。

バリヤードの型破りなデザイン
アイデアの提案から撮影、完成に至るまで、製作チームの苦労がにじんだバリヤードの取り調べシーンを、ロブ監督は「世界一優秀なアニメーターが愛情を注いだ場面」だと語る。その裏側には、そもそもバリヤードを実写映画に登場させることが困難だったという背景もあった。なにしろ、ポケモンの実写化にあたって製作チームが採用したルールが、バリヤードには適用できなかったのである。
「たとえばピカチュウやフシギダネ、リザードンなんかは、とてもシンプルなキャラクターに現実的なデザインを取り入れています。ピカチュウの場合、(ゲームの)ピカチュウのシルエットに忠実でありたかった。それでいてリアルな毛皮や筋肉、骨格、眼球にしたかったんです。毛皮もシミュレーションによって湿り気を表現していますしね。
(この映画では)ポケモンに命を吹き込むため、あらゆる技術が採用されています。それは僕たちが、現実の物理に基づいてポケモンを描きたかったから。だけど、バリヤードはその手がまったく使えなかったんです。じゃあ、どうすればバリヤードのカートゥーンっぽさを残しつつ、しかも写実的な表現にできるのか。」
そこで監督をはじめとする製作チームは、“バリヤードはパントマイムをするピエロである”というポイントに立ち返った。ピエロは何を着ているのか、肩の球体はゴムボールに近いのか、それともサッカーボールに近いのか。手はどのような質感なのか。細かな部分から着実にデザインを固めていったという。そんな中、やはり苦戦を強いられたのはバリヤードの顔だった。
「見ていて不安になる顔と、愉快な顔とは本当に紙一重。だからあれこれ試しましたよ。髪の毛をちょっと足せば、プラスチックっぽい質感にならなくなるんです。だけど、顔の崩れた人間に見えてしまわないよう、皮膚っぽくなりすぎないようにもしました。愉快な顔とも、不安になる顔とも言えるデザインが完成するまで、延々と作業を続けたんです。」
このように、バリヤードの映像化作業は本作でも屈指の難関だったとみられる。しかし『名探偵ピカチュウ』への登場は、そもそもロブ監督がバリヤードというポケモンを非常に気に入っていたため。監督は「ファンの皆さんのためのものを作りたい」との意志で本作を手がけたことを明かしていたが、ある意味では監督自身が一番の大ファンだったわけである。それゆえのこだわりと粘り強さが実を結んだのだとすれば……もしかするとバリヤードこそ、『名探偵ピカチュウ』を代表する“裏の顔役”といえるのかもしれない。
映画『名探偵ピカチュウ』は2019年5月3日(金・祝)より全国東宝系にて公開中。
『名探偵ピカチュウ』公式サイト:https://meitantei-pikachu.jp/