『ドクター・ドリトル』故・藤原啓治を振り返る ─ トニー・スタークやシャーロック・ホームズ、洋画吹替キャリアを再訪

ロバート・ダウニー・Jr.が主演を務めた映画『ドクター・ドリトル』が地上波初放送となる(2023年9月1日)。ダウニー・Jr.の他、アントニオ・バンデラスやセレーナ・ゴメス、トム・ホランド、ジョン・シナなど、著名なハリウッド俳優たちが声優を務めたことでも話題だった本作だが、日本語吹き替えキャストでも錚々たるメンバーが集結した。
中でも、ダウニー・Jr.の吹き替えを務めた藤原啓治は、アニメ「クレヨンしんちゃん」の野原ひろしの声を務めたことでも知られている。日本声優界のベテランとして活躍していた藤原は、『ドクター・ドリトル』日本公開を2ヶ月後に控えた2020年4月に癌のため死去。本作が遺作となった。
櫻井孝宏さん&藤原啓治の台湾イベント、無事に終了いたしました\(^o^)/
みなさまのおかげで、とても楽しいイベントになりましたっ!!
本当にありがとうございました(*^^*)
【スタッフM】 pic.twitter.com/26IWwwcCOD
— AIR AGENCY (@AIR_AGENCY) December 6, 2015
ファンには野原ひろし役の印象が強かった藤原だが、洋画吹き替えでも名だたるキャラクターを演じてきた。本記事では、藤原の遺作『ドクター・ドリトル』の地上波放送を機に、洋画作品にまつわる故人のキャリアを振り返る。
『チャーリーとチョコレート工場』ウィリー・ウォンカ役(ジョニー・デップ)
ジョニー・デップの吹き替え声優といえば、「ONE PIECE」サンジ役を代表作に持つ平田広明。1996年公開の『エド・ウッド』に始まり、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウ役や『ファンタスティック』シリーズのゲラート・グリンデルバルド役など、デップ作品の専属声優だ。しかし、ジョニーの代表作である『チャーリーとチョコレート工場』(2005)では、例外的に藤原が吹き替えを担当した。
1990年代に入り、洋画吹き替えへの活動を精力的に見せ始めた藤原。アニメ声優としては当時すでに野原ひろし役で名を揚げていたが、洋画吹き替えではテレビ地上波版やソフト版での端役が多かった。その中で、『チャーリーとチョコレート工場』は、藤原の洋画吹き替えキャリアを大きく前進させるものとなった
ちなみに映画が公開された2005年、『チャーリーとチョコレート工場』は邦画を含む国内年間累計興行収入ランキングで第5位を獲得。藤原の熱演もあり日本でも大ヒットを記録し、公開から18年を経ても多くの人に愛され続ける作品となった。
『アイアンマン』『アベンジャーズ』シリーズ/トニー・スターク役(ロバート・ダウニー・Jr.)
『チャーリーとチョコレート工場』出演から3年後の2008年、藤原の洋画吹き替えキャリアに転機が訪れる。『アイアンマン』のトニー・スターク/アイアンマン役だ。今やハリウッド最大級のフランチャイズとなったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第1作目である本作を機に、ロバート・ダウニー・Jr.の吹き替えをメインで担当することになる。
藤原がMCUで務めたトニー・スターク役は、計11作。ダウニーともにMCU11年の旅を駆け抜けた。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』公開後の2019年5月、藤原は自身が運営する会社の公式Twitter(現:X)アカウントで、トニー・スターク役への想いをこう綴っていた。
再び藤原啓治って者ですが…一言付け加えさせてくださいな
「アベンジャーズ/エンドゲーム」までは何としてもトニースタークを吹き替える事を目標にもしていたので、観終わった後は感慨深いものがありました
ホントにありがとさん!て感じ— AIR AGENCY (@AIR_AGENCY) May 8, 2019
2016年には、病気療養のために休業を発表していた藤原。『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役からも一時降板することになったが、トニー・スターク役だけは最後まで……という強い意志の下、収録に挑んでいたのだろう。
『シャーロック・ホームズ』シャーロック・ホームズ役(ロバート・ダウニー・Jr.)
2008年の『アイアンマン』公開の翌年には、ロバート・ダウニー・Jr.主演の『シャーロック・ホームズ』シリーズもスタート。2009年の第1作と2011年の『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』の2作品でダウニー・Jr.演じる名探偵ホームズの吹き替えを担当した。
少年時代からコナン・ドイルの原作小説を読んでいたという藤原。映画版『シャーロック・ホームズ』以外にも、ドラマCD版でもホームズを演じるなど、同キャラクターとは縁が深かったようだ。
映画シリーズで藤原が担当したホームズ役は2作に留まったが、トニー・スターク役の吹き替え声優としても活動していたこともあり、両キャラクター間の聴き比べも面白そう。ぜひ観返してみては。
『ドクター・ドリトル』ドクター・ドリトル役(ロバート・ダウニー・Jr.)

ヒュー・ロフティング原作の児童文学作品『ドリトル先生』シリーズを再映像化した2020年公開の『ドクター・ドリトル』。ダウニー・Jr.が主演ということでお馴染みの藤原もカムバックした。
直前まで演じていたトニー・スタークとは違い風変わりなドクター・ドリトル。藤原の吹き替えによるコミカルなシーンは観客を楽しませた。一方、キャリアの中で父親役を演じることも多かった藤原だからこそ、子どもに語りかけるその声はスターク、ドリトル共に共通した温かみが感じられただろう。

改めて、これまで数々の名キャラクターを声で演じてきた藤原啓治氏の生前の活躍に敬意を表したい。