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イラク戦争の真実とは? 政府の腐敗をリアルに描いた『リーサル・ミッション』の社会派ドラマに注目

フセイン政権打倒とイラクの武装解除を目的に、イギリスとアメリカが決断した先のイラク戦争は、当時の日本にも大きな影響を及ぼした。国際世論の反対も虚しく戦端を切ったイラク戦争、そこに隠された真実に迫る硬派な社会派映画『リーサル・ミッション』が、オンライン上の映画館『DIGITAL SCREEN』で上映中だ。

イラク戦争の引き金となった大量破壊兵器、通称W.M.D.をイラク政府が隠し持っていると見込んだ米国・英国だったが、果たしてこの戦争には正当性があったのだろうか? そして政府の隠蔽するイラク戦争の真実とはなにか? 兵士たちの苦悩と自問自答の心境を描き、イラク戦争の過ちと政府の腐敗をリアルに示した傑作戦争ドラマが登場だ。

『リーサル・ミッション』あらすじ

(C) 2015 INCIDIAN PICTURES
(C) 2015 INCIDIAN PICTURES

イラク軍が密かに製造するという大量破壊兵器=W.M.D.を壊滅すべくアメリカ軍の特殊部隊がイラクに投入された。困難な状況の中、順調に作戦は進行しているかに見えたが、大統領が何者かに誘拐されるという前代未聞の事態が発生する。アメリカ軍の威信をかけて、速やかに大統領を救出するための絶対に失敗の出来ない究極の司令=リーサルミッションが発令された。大統領誘拐の目的は?!アメリカ軍最高の精鋭部隊は大統領救出という任務を遂行できるのか?生死をかけた極限の状況下、戦いの行方は?!!(『DIGITAL SCREEN』より引用

イラク戦争の正当性を問う、左翼思想の野心作

(C) 2015 INCIDIAN PICTURES
(C) 2015 INCIDIAN PICTURES

2003年に開戦したアメリカ合衆国(およびイギリス)主導のイラク戦争は、今現在においてもその正当性が問われている。当時、イギリスを除いたヨーロッパ諸国、中東諸国、そして中国、ロシアも反戦の立場を強硬していたが、2003年3月20日、米英軍が巡航ミサイル“トマホーク”でイラク大統領官邸など複数の重要施設を爆撃し、首都バグダッドへの奇襲爆撃をもって開戦に至る。そこから8年後の2011年、オバマ大統領がイラク戦争終結を宣言し、一応の終戦がもたらされた。

そもそも米英が主張した開戦事由は、「フセイン政権は過去に大量破壊兵器(W.M.D.)の保有を公言し、現在もそれを保有する可能性が国際秩序を脅かす」というものだったが、実際にイラク国内で大量破壊兵器の存在は確認されていないのが事実だ。また、2001年のアメリカ同時多発テロの首謀者を匿っているとし、アフガニスタン紛争が勃発。その裏でイラクが暗躍しているなどと主張した。

米軍特殊部隊員のハンク・ギャリソン大尉は、そんなイラク戦争に対して強い疑問を抱いていた。彼は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに関わったとされる、複数の重要人物の殺害任務を請け負うも、実は“9.11”とは全く関係のない罪の無き人間だったことを知る。“9.11”の悲劇から愛国者としてテロリストへの復讐を誓うギャリソンだったが、次第に彼はこの矛盾した戦争、それを決断した大統領に対して強い憤りを覚える

そして遂に、ギャリソン大尉とほか数名の仲間たちは、イラク・バグダッドを訪問する米国大統領の拉致計画を実行する。「アメリカ政府が決断を下したイラク戦争は誤りだった」という部分に焦点が当てられており、まさにアメリカ国内からすると左翼思想に感化された問題作であると言って差し支えない。表向きには戦争アクションのようにも見えるキービジュアルだが、実際はとても硬派な社会派ドラマに仕上がっている。

兵士の抱える苦悩に迫る、現実味のある密室ドラマ

(C) 2015 INCIDIAN PICTURES
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誘拐された大統領は施設の厨房に監禁される。本作はその殆どをこの厨房内で展開し、緊迫した密室ドラマを繰り広げる。誘拐計画を首謀したハンク・ギャリソン大尉は、部下のダウニー、リッグス、そして期せずして巻き込まれたタルタコフと共に、その厨房に立て籠った。椅子に座らせ両手を拘束した大統領に対し、ギャリソンはこれまでの苦悩を鬼の形相で訴え、更にこの戦争の真実を問いただす。

ヨーロッパ諸国が主張した国連査察団の査察継続を無視し、単独での戦争を推し進めた大統領に、一方的な質問を投げかけるギャリソン。ついには、グアンタナモ収容所やアブグレイブ刑務所などで知られる、非人道的な虐待・拷問を引き合いに出し、大統領に水攻めの尋問を行うなどした。作中では、米兵による実際の捕虜虐待事件もテーマに盛り込んでいるのだ

兵士たちが抱いたリアルな“苦悩”と“後悔”を描いた本作は、イラクやアフガニスタンを始めとした中東諸国に展開するその米兵のひとりひとりが、今も実際に感じている疑問なのかも知れない。帰国のメドも立たずに足止め状態の彼らは、ギャリソンのようにこの戦争の道理を探し求めているのだろうか。

政府が隠蔽する戦争の真実

(C) 2015 INCIDIAN PICTURES
(C) 2015 INCIDIAN PICTURES

2003年のイラク戦争(加えて2001年のアフガニスタン紛争)の出発点は、世界に衝撃を与えた“9.11”にあることは明らかだが、世界では米国政府による陰謀論がまことしやかに囁かれている。それは、米国政府がテロ計画を知りながらも、政府はテロ計画の防止に努めず、むしろ戦争の口実にテロ計画を利用したというものだ(または、米国政府による完全なる自作自演であったとする説もある)。

政府はこれらの事実を隠蔽しながらアフガニスタン紛争の火蓋を切り、その後のイラク戦争ではサダム・フセイン拘束後、石油利益を確保するエネルギー資源争奪戦へと変貌。対テロ戦争であったはずが油田利権の支配に目的が変わったと、ギャリソン大尉は説く。テレビや新聞で報じられた実際のニュースを更に掘り下げ、同時に米国政府の腐敗を示した非常に挑戦的な映画だ。

誘拐された米国大統領は、この映画を通してただ“大統領”と呼ばれているが、彼はイラク戦争を決断した第43代アメリカ合衆国大統領、ジョージ・W・ブッシュをモデルにしているのは明らかだ。扮するのは、TVドラマを中心に活躍するジョン・ポージーで、ブッシュの描写を巧みに演じている。終盤では彼がテンガロンハットを被る場面があるが、これはブッシュ前大統領がカウボーイスタイルを好んでいたこと、そして彼の汚点である“カウボーイ外交”を揶揄する意味も込められているのだろう。

これに加え、ギャリソン大尉を演じるトム・キーシェの素晴らしい熱演ぶりも合わさり、作品に更なる説得力を持たせている。マッド・デイモン主演の『グリーン・ゾーン』(’10)や、クリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』(’14)など、イラク戦争を題材とする作品らと共に、戦争の意義を説いた本作も是非ご覧になって頂きたい。

【デジタルスクリーン】ウェブサイトはこちら

【リーサル・ミッション】上映ページはこちら

※デジタルスクリーンは現在パソコンでのみ視聴可能です

(C) 2015 INCIDIAN PICTURES

 

Writer

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Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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