『ダンケルク』撮影中にIMAXカメラが水没、あわや大惨事に!90分以上沈んだフィルムはいかに蘇ったか
2008年『ダークナイト』で劇映画の世界にIMAXカメラを導入したクリストファー・ノーラン監督は、まごうことなく映画の映像に革命を起こした人物だ。その撮影への情熱は他の追随を許さず、その妥協しない姿勢は『ダークナイト』および『ダークナイト・ライジング』(2012)の2度にわたって超高価なカメラを破壊するという結果にも至っている。IMAXカメラを世界一乱暴に扱う映画監督であることもまた事実だろう。
そんなノーラン監督の最新作『ダンケルク』で、監督と撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマ(『インターステラー』(2014)でノーランとのタッグを経験済み)はさらなる挑戦に臨んでいる。巨大なカメラを戦闘機のコックピットにを入れたり水中撮影に使用したりと、いわゆる“掟破り”の撮影を次々実施したのだ。
しかしそんなある日、撮影中にIMAXカメラが完全に水没してしまうという悲劇が起こった……。
思わぬ速度でカメラが沈没
米American Cinematographer誌にて、撮影監督のホイテマ氏は事故の経緯とその様子を詳しく語っている。
『ダンケルク』の撮影現場では、登場人物の目線から見た臨場感ある映像を撮るべく、「普通は置けないような場所にとにかくカメラを置こうとしていた」という。その中のひとつが、着水する戦闘機の内部にIMAXカメラを仕掛けるというものだった。
「スタッフは最高の仕事をしてくれたんですよ。(着水の)物理的な衝撃に耐え、海水からカメラを守るため、IMAXカメラを保護する箱を作ったんです。浮いている機体からカメラを回収する優れた計画もありました。」
しかし物事はなんでも想定通りに進むものではない。撮影が始まり、いざ戦闘機が着水すると、思わぬ速度で機体が沈んでいったのだ……。
「戦闘機がほとんどすぐに沈んで、カメラは海底まで行ってしまったんです。」
もはや水にちょっとだけ落ちたとかいうレベルではない。IMAXカメラは一度、完全に海の底まで沈んでしまったというのだ。しかもダイバーの手でカメラが回収されるまで、時間にしてなんと90分以上もかかったという。すでに保護用の箱は水圧で壊れ、カメラとフィルムを収めるマガジンは塩水に浸されたあとだった。しかし撮影チームは、“もうダメだ”とは考えなかったのである。
「フィルムの管理を担当していたジョナサン・クラークが、回収したマガジンを真水ですすいで、フィルムを暗室できれいにしてくれたんです。箱詰めして、真水に漬けてしまう前にね。」
アメリカ・カリフォルニア州のFotoKem社から「できるだけ水を切るように」というアドバイスを受けた撮影チームは、その後、水に濡れたフィルムを同社のオフィスまで送ることになったという。しかし『ダンケルク』では情報の流出を防ぐため航空便を使わない方針だったため、水びたしのフィルムは船に乗って大西洋を渡ることになったのだとか……。
スタッフの尽力によって、海底に沈んだフィルムは望み通りの色と鮮やかさをもって現像され、無事に本編に使用することができたという。ホイテマ氏は水没事件を振り返って、「もしもデジタルで撮っていたら素材は失われていたでしょうね」と話している。
劇場に足を運んだ際は、ぜひとも「この映像が沈んだのかな……」などと思いながらご覧いただきたいところだが、なにせ『ダンケルク』は圧巻の映像の連続である。きっと水没のことなんてすっかり忘れて、作品にまるごと没入してしまうことだろう。
映画『ダンケルク』は2017年9月9日より全国の劇場にて公開中。
Source: American Cinematography 2017 August
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