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【多分1番苦労したのは石原さとみ】なんだこの快感と興奮は?『シン・ゴジラ』レビュー

庵野秀明監督作品『シン・ゴジラ』。

かなり前から映画館では特報が流れていたので気にはなっていたものの、どうせトンデモ映画になるんだろうとタカをくくっていた。

本当にごめんなさい。私が間違っていました。

『シン・ゴジラ』は、観ているこちらのテンションを爆上げしてくれる傑作だ。しかも、そのほとんどが政府や自衛隊内での会議シーン。もちろんゴジラ自体も見どころではあるのだが、『シン・ゴジラ』の魅力はゴジラを迎え撃つ人間たちにこそある。

まるでラップ?早口によるトリップ効果

謎の生物が現れるという前代未聞の大災害が生じ、政府では度重なる緊急会議が開かれる。各省庁がそれぞれの立場や思惑から、様々な発言を重ねていくのだが、そのスピードが尋常ではない。もちろん『エヴァンゲリオン』でおなじみの調子ではあるのだが、アニメと実写ではまた印象が異なるのも事実。次から次へと専門用語を交えながらリズミカルに飛び出す日本語たちは、段々とこちらの脳内が麻痺させていくようだ。音楽でも聴いているような中毒性があり、ずっと浴びせられていたくなる。まるでラップ。こんな体験は初めてだった。

そして、心底日本語が理解できてよかったと思った(日本人だから当たり前ではあるが)。字幕になってしまうと、情報量を減らさないといけないわけで、この快感を共有するのは難しくなるだろう。

日本の中枢の情報系統がよくわかる

未曽有の緊急事態に、総理大臣をはじめとして各大臣、官僚、自衛隊、米国、米軍、国連が一斉に動く様子が描かれている『シン・ゴジラ』だが、よくある大作映画のように、超剛腕のリーダーも出てこなければ、ひとりで問題を解決してしまう強運すぎるノンキャリも登場しない。あくまでも本来の手続きにのっとって、スピーディに物事が決定されていく。緊急対策委員会を結成するための会議、自衛隊を動かすための理論武装、誰がなにを決定でき、誰がなにを決定できないのか。そういったことがめまぐるしい展開の中でひとつひとつ描かれていく。

『エヴァンゲリオン』のような文字による演出が印象的で、それぞれの肩書と名前が表示されるものの、それらは全てものの数秒。はなから読ませる気も、覚えさせる気もないことが窺える。膨大な数の人間が、誰も取り乱すことなく、淡々と組織的に即行動していく様子は清々しい。同じ場にいても、幕僚長は防衛大臣の目を見てしか発言せず、総理大臣に発言するのはあくまでも防衛大臣だったり、大臣たちのうしろに控える官僚たちがスッとメモを差し出す様子など、細かい描写が非常に丁寧。特に、自衛隊の描き方は目を見張るものがあり、どうしてここまで全面協力を得られたのか不思議なほど。自衛隊はやっぱりゴジラファンやエヴァファンが多いのかな……としか思えないキメ細やかさで、”もっと自衛隊を出して―!”と思わずにはいられないほど魅力的に描かれている。

ボンクラが出てこないって気持ちいい!

「1番好きな映画に『アルマゲドン』を挙げる男とだけは付き合えない」

これは、私の独身時代の信条だ。『アルマゲドン』を観たときに、「ここまでの地球の危機をこいつらに託すなんていう選択は100%あり得ない」としか思えなかった私は、その後にいくつも観たこのテの映画に出てくるありがちな展開に嫌悪感を抱いている。

  • ちょっとお目にかかったことがないくらいのボンクラが登場する。
  • 誰がどう考えてもNOとしか思えない選択肢が選ばれる。
  • 「なんでそんなに偉くなれたの?」と不思議に思うほどに独断と偏見に満ちた上司がいる。

その他、時間の無駄としか思えない恋愛パートや、お涙頂戴のお別れパートなどはいわずもがな。詳しい説明は避けるが、『シン・ゴジラ』にはこのようなストレスは皆無だ。まず、バカが出てこない。ひとりも出てこない。その中で、真に有能な人物とそうでもない人物が出てくるだけだ。こんな簡単なことが、これほどの爽快感を生むとは思わなかった。頭がいいって最高ー!!!

冗談のような役者の大量投入っぷり

『シン・ゴジラ』の出演者は膨大な数に及び、キャストクレジットは3名を除いて50音順で表示される。事前に情報解禁されていたように、前田敦子や斎藤工など、錚々たるメンツがほんの数秒のために登場するし、どんなに大御所でも「え、これで終わり?」というほどあっけなく画面から消えたりする。あまりにも意外なところで有名俳優が出てくるために、一瞬劇場内で笑いが起きていたし、正直、私が気づけなかった役者も大勢いた。

なんでもない場面での有名俳優のカメオ出演は、ときにノイズにもなり得る。しかし、『シン・ゴジラ』に関しては逆だ。『エヴァンゲリオン』っぽい会話スピードやテロップでハイになっているところに次々投入されるので、出演者も一緒になった一体感と言うか、高揚感というか……とにかく、より一層気分を盛り上げる追加燃料の役割を果たしてくれる。「ふぅー!片桐はいり出てきたー!」みたいな変なテンションが味わえるのだ。

おそらく1番苦労したのは石原さとみ

ひとりだけ出演者に言及するなら、石原さとみだろう。米国側の人間として登場するそのキャラクターが特殊すぎて、台本を手にしたときの本人の困惑が想像できる。英語ネイティブで、当然スラスラと英語を話す上に、日本語の中でも英単語だけはネイティブ発音になるというセリフ回しを、他の登場人物と同じように高速でこなさなければいけない。きっと「なんでこの役、英語ネイティブの人を配役しなかったの?」と本人も思ったに違いない。

しかし、『シン・ゴジラ』の魅力は、“リアルな出来事を、敢えて微妙にアンリアルに描いている”ことにあると私は思っているので、石原さとみという配役で良かったと思っている。現実的にはあり得ないテンポで、あの状況では極めて現実的な内容を会話する。”現実的”にこだわった部分と、”敢えての演出”にこだわった部分とを積み重ねていくことで、クライマックスまで観客を波に乗せていっているのだ。クライマックスは最高に次ぐ最高の連続なのだが、冷静に考えるとまったくもって現実的ではないしツッコミどころ満載だ(「やりたかっただけだろ」と、エヴァふぁんへのサービスのオンパレード)。しかし、“現実”と”非現実”の絶妙なさじ加減で、うまいこと変なテンションを維持させられているため、クライマックスにも違和感を覚えることはない。そういう意味で、石原さとみは”敢えての非現実”(言っていることはマトモ)に多大なる貢献をしているのだ。

※ちなみに、私が1番好きだったキャラは平泉成。

『シン・ゴジラ』を観ないのは人生の損!

もちろん、ゴジラについても破壊された東京についても言いたいことは山ほどあるのだが、書き始めたら止まらないので自重しようと思う。もうこれ以上はなにも言えない。今すぐに映画館にGO!!

Eyecatch Image: Screen shot from https://www.youtube.com/watch?v=M89VLZgo1Vg

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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