【インタビュー】『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』史上最強の怪獣バトルができるまで ─ マイケル・ドハティ監督のアタマの中

インスピレーションの源
英Empireによると、ドハティ監督は怪獣を描くにあたり、実在する生き物も参考にしていたという。たとえば、ゴジラはグリズリー(ハイイログマ)。モスラはカマキリと蛾、ラドンはタカやワシといった猛禽類、そしてキングギドラはコモドオオトカゲとアナコンダといった具合だ。ちなみにゴジラの戦闘スタイルは相撲の力士を参考に、動きをスローモーションで確認して、身体の巨大さと力強さ、機敏さを取り入れていったという。
しかし、である。動物や人間をベースにするのでは、怪獣たちのイメージは「古代の神々」から離れ、むしろ現実の動物に近づいていくのではないか。ドハティ監督は、実在感と神話性のバランスを取るのは「本当に難しかった」と教えてくれた。そして、そのためにあらゆるものからインスピレーションを得ていたことも。
「昔の(東宝)怪獣映画は大きな参考になりました。怪獣たちにきちんと性格を与える、すばらしい仕事だったと思います。東宝映画以外にも『キングコング』や、『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』(1955)などの1950年代に作られたモノクロのモンスター映画。レイ・ハリーハウゼン[編注:特殊効果の巨匠]の作品に、オリジナル版『ゴジラ』(1954)に大きな影響を与えた『原子怪獣現わる』(1953)も観ましたね。
自然を写した写真や、実際の自然現象も参考にしています。怪獣の持つ巨大な力と同じような、嵐や火山の噴火といった現象ですね。ハリケーンと火山の噴火を混ぜ合わせたらどうなるか、といったことも考えました。聖書の絵にもインスピレーションを受けています。ありとあらゆる、まったく異なるインスピレーションを融合させて、怪獣の持つ真のパワーを描こうとしたんです。こうあるべきだという形や力を表現するため、長い時間をかけて、複雑な作業の中でバランスを見つけていきました。」

そのほか本作では、『エイリアン』(1979)『エイリアン2』(1986)の雰囲気や、『遊星からの物体X』(1982)における、「現実的なキャラクターと非現実的なモンスターが対決するシチュエーション」も参考にされたとのこと。それから「不思議に思われるかもしれないですが」と前置きしてから挙げられたのは『十戒』(1956)だった。「『十戒』は非常に空想的かつ奇妙で、ミステリアスな出来事を描いていますよね。この映画では、聖書的な匂いや、黙示録さながらの終末感を出したかったので」。

監督のキャリアから引き出されたもの
ゴジラ映画を愛し、ゴジラを愛し、ひいては映画への造詣も深いドハティ監督の引き出しは、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を作り上げるにはふさわしいものだったといえる。『トリック・オア・トリート』(2009)や『クランプス 魔物の儀式』(2015)といった、低予算のホラー映画/モンスター映画を手がけてきたキャリアも、初めての大作映画となった本作には十分役立てられたはずだ。
もっともドハティ監督は、東洋の怪獣映画と西洋のモンスター映画の共通点・相違点よりも、むしろクリエイターとしての経験こそが今回の創作には大きく役立ったのだと振り返る。「走る前には歩くことを知らなくてはいけません。初めて作った映画で、僕は歩き方を教わりました。『ゴジラ』は走ることを教えてくれたんです」。史上最強の怪獣バトルを生み出した最大のカギは、ドハティ監督の“学び”にこそあったのかもしれない。
「これまでの映画は規模の小さい作品でしたが、大作を作る上では良いトレーニングになったと思います。つまり、今までは製作費も安くて、セットも小さかったんですが、それでも大変なのは同じだったんですよ。長い時間をかけて、スタッフと一緒に映画を作るとはどういうことかを学ぶことができたと思います。VFXにしても、作品を追うごとにエフェクトの量が増えていきましたしね。
それから、今回は自分が培ってきた多くのスキルに助けられたことも多かったんです。僕は手描きのアニメからキャリアを始めているので、VFXチームとコミュニケーションを取る時には、言葉ではなく手で実際に描きました。同じ言語を使って、(映像を)どんな風に動かしたいのかを伝えられたのは良かったですね。『クランプス』に出てくるジンジャーブレッドマン[編注:クッキーのキャラクター]でも、120メートル近い怪獣でも基本的な技術は同じです。照明やカメラの使い方、人物の動かし方、演出の付け方。小さい映画から始められたのは素晴らしいことだったと思います。」

ゴジラや怪獣映画への愛情、あらゆるインスピレーションの源、そして自分自身の経験を基にして、ドハティ監督は、ゴジラ映画史上かつてない怪獣バトルを完成させてみせた。いまや、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が怪獣映画の歴史に残る一本となったことは疑うべくもないだろう。日本製ゴジラ映画としては『シン・ゴジラ』(2016)の成功が記憶に新しいが、今後ふたたび作られるかもしれない東宝ゴジラ映画は、“怪獣バトル映画”という方向性で本作と真っ向から戦えるのだろうか?
インタビューの最後に、ドハティ監督が、今後の東宝ゴジラ映画に期待しているものについて聞いてみた。
「東宝さんにはゴジラ映画を作り続けてほしいと、心から願っています。東宝のみなさんはゴジラに対する唯一無二の視点を持っていらっしゃいますし、“ゴジラとは何か”を知り尽くしている。僕は、『シン・ゴジラ』後のゴジラ映画を楽しみにしているんです。現代的な解釈のモスラやラドン、キングギドラを観てみたい。『シン・ゴジラ』がゴジラを新しく描いていたように。」
映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は2019年5月31日(金)より全国東宝系にて公開中。
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公式サイト:https://godzilla-movie.jp/
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