なぜブロムカンプ監督は、これまでと全く毛色異なる『グランツーリスモ』を引き受けたのか?【インタビュー】

プレイステーションの大人気ドライビングシミュレーションゲーム『グランツーリスモ』初のハリウッド実写映画が、いよいよ2023年9月15日より公開になる。ゲームのトッププレイヤーを実際のプロレーサーに育成する前代未聞のプロジェクト「GTアカデミー」を舞台に、ゲームプレイヤーから本当にレーサーとなった男の感動の実話を描く物語だ。『第9地区』などのSF作品で知られるニール・ブロムカンプがメガホンをとった。
THE RIVERでは、ブロムカンプ監督に単独インタビューを実施。これまでのブロムカンプ作品とは毛色が全く異なるという『グランツーリスモ』について、特色やこだわりを聞いた。
映画『グランツーリスモ』ニール・ブロムカンプ監督 単独インタビュー

──映画『グランツーリスモ』のレースシーンはアドレナリン全開、それでいて物語はとてもエモーショナルで、素晴らしい映画でした。劇中では一部日本でのシーンもありましたが、来日されていたのでしょうか?
そうなんです!日本に行くのが大好きで、東京はめちゃくちゃ大好き。今作では、実際に東京で撮影したシーンもありつつ、実はそうでないシーンもあります。たとえば、日産本社のシーンは日本ではなく、ハンガリーにセットを組んで撮影しました。でも、それ以外の東京のシーンは、全て実際に現地で撮影しましたよ。
──東京の撮影に同行したのは?
オーランド・ブルームと、主演のアーチー・マデクウィ、オードリー役のメイヴ・コーティエ=リリーです。それから、プロデューサーのダグ・ベルグラッドに、ラインプロデューサーとか、エクゼクティブ・プロデューサー、ヘアメイクや衣装担当のクルーたちで揃って、日本を訪れました。
東京に行くと、いつも魅了されますよ。大都会が大好きでね。素晴らしいものがたくさんある。日本でのロケ撮影は、本作で特に楽しかったことの一つです。
──日本のファンは、あなたの作品に日本モチーフのものが登場することをいつも喜んでいます。たとえば『エリジウム』(2013)では忍者やサムライのようなヴィランが登場しましたし、『チャッピー』(2015)にも日本アニメの影響が認められます。
僕が南アフリカに住んでいた頃は、アニメに触れることはなかったんだけれど、18歳でカナダに引っ越してから、様々なアニメの世界を知りました。そこで士郎正宗の『アップルシード』や『攻殻機動隊』の世界観に出会ったんです。そして、その道を進めば進むほど、『AKIRA』にハマってね。『チャッピー』は、士郎正宗『アップルシード』のブリアレオスへのオマージュなんです。とにかくずっと大好きで……、物事を完璧にしてくれるカルチャー、という感じです。それに、日本車のデザインも好きですね。
──日本車といえば、『エリジウム』ではディストピアバージョンに改造した日産GTRを登場させていました。そして本作『グランツーリスモ』では、その日産と協業して、再び日産の車を扱いました。これは興味深い偶然ですね。
GTRは個人的に大好きな車で、『エリジウム』に登場させたのは完全に僕の趣味です。あの作品では、荒廃した近未来の、マッドマックス風の車を求めていたから、それをGTRでやったら面白いんじゃないかと思って。今回はソニーから『グランツーリスモ』の脚本が届いて、GTRが題材となる感動的な実話だと分かった時、すぐに「やりたい!」と思いました。
──監督のこれまでの作品には、二つの極端に異なる属性が同居しているという特徴があると思います。たとえば、人間とドロイド/エイリアン、富と貧困、無機物と有機物、といった具合です。今作はいかがですか?
今作は、これまでとは全く異なると思います。僕の過去作はどれもダークで悲観的。だからこそ、今作のような映画を撮ることになるとは思ってもみませんでした。ただ、本作の話をいただいた時、こういう感動的で前向きな作品は、これまで自分が作ってきたものへのカウンターになると思ったんです。実際、僕もこういう映画を作ってみたいとは願っていたんですよ。13歳の自分が感激するような映画をね。僕の過去作とは全く異なっているから、これまでの作品と同じ要素はないと思います。

──これまではSFやディストピア映画を作ってこられましたが、本作は初めての実話ベース、実在の人物を描く作品となりました。
これもまたソニーから脚本を受け取った時の話になってしまいますが、脚本を読んだ時に、こう思ったんです。「自分はこれまで、SFのデザインや、非現実的なディストピア世界についてずっと考えてきたんだな」と。でも本作なら、プロダクション・デザインも現実に則し、現実世界の物語、本物のレース、本物の衣装、本物の街が扱える。全てをリアルにやれるじゃないかと。
これを観客に見せ込むのは、まるで一対一で向き合っているような感じで、自分でも驚くほど創造的な面白さがあったんです。これまでとは全く違う心構えで挑みましたが、とても満足しています。

──レースのシーンは驚くほど素晴らしかったです。観客をレーシングカーのコックピットに放り込み、本物のレースドライバーの感覚を擬似体験させつつ、観客席の最前線から、白熱のレースを眼前で見せてくれました。このように、レースのシーンでは複数の視点をリアルに描かれていましたね。
制作当初から、レースのシーンが要でした。そこで集中したい要素としては二つありました。まず一つはドローン。僕はドローンが大好きなんです。自分でもドローンを飛ばしまくっています。FPV(一人称視点)が大好き。映画で、という話じゃなくて、スポーツの場面でね。たとえばレッドブルのエクストリームスポーツの中継映像とか。これを取り入れたかったんです。そういえば、ドローンのFPV映像は実際のレースの中継でも使用されているところを見たことがないぞと。もちろん、映画でも見たことがないでしょう。
それから、できるだけコックピットの内部を映すことにもこだわりました。役者と一緒に“その場”にいるか、コックピットから外を見ているか、そのどちらかを感じられるようにね。この二つを撮影全体で重要視して、そこから発展させていったんです。
これを実現するために、本作ではポッドカーを組んで、車体ルーフ上の運転席でスタントドライバーが運転できるようにしました。車内の役者をカメラで映していますが、実際に運転はしておらず、演技に専念しているということです。
アーチーは撮影で、自分が握るステアリング・ホイールは本物ではなく、自分の頭上にいるスタントドライバーが運転しているという感覚に慣れるまでに時間を要していました。想像して欲しいんですが、その状態で時速150キロでコーナーに差し掛かって、自分のステアリング・ホイールが機能しない時、スタントドライバーへの信頼がないと恐ろしいですよね。彼は車を運転するシーンではずっと違和感があって、大変だったと思いますよ。
映画『グランツーリスモ』は2023年9月15日、日本公開。