【特集】キャプテン・アメリカはどこへ向かう ― 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』アイアンマン、そして世界との対立を追う

大勢のマーベル・ヒーローが一堂に会する映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』において、スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカが群を抜いて重要な人物の一人であることはもはや疑う余地もないだろう。
第2次世界大戦中、超人血清によって屈強な兵士となったスティーブは、ヒドラとの戦いの末に北極で眠りについた。70年の時を経て現代に甦った彼は、ヒドラの力が蔓延したS.H.I.E.L.D.を目の当たりにし、今では追われる身となってしまったのである。
本作の予告編に登場したキャプテン・アメリカは、もはや私たちの知る姿ではない。髭は伸び、スーツはボロボロに擦り切れてしまったのだ。『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)に登場した『アベンジャーズ』(2012)を思わせる姿はどこへ……。本記事では、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)以降のキャプテン・アメリカに起こった変化や、袂を分かってしまったトニー・スタークに対する感情などを関係者の証言から紐解いていく。
この記事では、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のネタバレおよび『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の設定や内容に言及しています。
キャプテン・アメリカの変化、それでも変わらないもの
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の物語は、『シビル・ウォー』から2年後が舞台となる。『スパイダーマン:ホームカミング』で「政治犯」と呼ばれていたキャプテン・アメリカは、前日譚コミック“Marvel’s Avengers: Infinity War Prelude”によると、ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ、サム・ウィルソン/ファルコンとともに反テロ活動に身を投じていたようだ。
ブラック・ウィドウ役のスカーレット・ヨハンソンは、彼らが「政府の支援も受けず、大衆にも支持されないまま、多くのミッションに関わって」きたのだと述べている。
こうした変化は、一時は国民の英雄として持て囃された彼にとってあまりにもギャップが大きいものだ。ボロボロになってしまったスーツはその転落を示しているが、演じるクリス・エヴァンスは、スーツこそがスティーブの内面を象徴しているのだと解説する。
「(『シビル・ウォー』で)スティーブはどうしても盾を捨てなければいけなかった。少しだけ自分のために行動したんです。それでも誰かの役に立つことは彼の本分ですし、ある程度正気を保っておくためには秩序の中で動かなければいけない。そんなふうに頭を働かせて、自分にできることをしなければいけないんです。
ブラック・ウィドウにも似たようなところがあって、キャップとはお互いに助け合っていると思います。特に『シビル・ウォー』で生まれた、一種の喪失に直面する中ではね。彼は任務を遂行しているけれども、本当は誰にも向き合っていない。(ボロボロのスーツは)傷ついた人間というものを象徴しているんです。だから擦り切れて、破れているんですよ。」
またクリスは、現在のスティーブについて「しばらく自分自身の中にこもっている。ちょっと危険な状態ですらあるんです」と明かしている。ブラック・ウィドウとの関係についても「お互いに埋める隙間があって、壊れてしまった信念に向き合わなくてはならなくて、いろんな理由でお互いに寄りかかってきたんじゃないか」と語っているのだ。
こうした人物像の変化には、スティーブ自身の世界に対する認識が変わったという背景がある。クリスいわく、スティーブは「歳を重ねるにつれて幻滅してきて」おり、「この世界は“こうあってほしい”と自分が望んでいるようなものではないと学びつつある」というのだ。
しかし、それでもスティーブ・ロジャースという人間には1940年代から変わらないところもある。『シビル・ウォー』のあと地下活動に徹してきた彼には、いったい何が残っているのだろう?
「スティーブは禁欲的な人物で、自分自身について、すごく日常的なところを大切にしているんです。朝起きた時には必ず習慣があると思うんですよね。根本的に、自分の健全さを保っておくところがあるというか。でも(『シビル・ウォー』を経て)それが少し失われてしまった。思いやりがなくなったわけじゃない、でも責任からは手を引いたんですよ。」
トニー・スタークとの関係、チームのリーダーとして
マーベル・シネマティック・ユニバースの物語を追いかける上で、トニー・スターク/アイアンマンとの間に生まれた軋轢について言及しないわけにはいかない。
『シビル・ウォー』で、ヒーローを国連の管理下に置くという「ソコヴィア協定」をめぐってトニーとスティーブは反発する。さらにスティーブの幼馴染であるバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーが指名手配犯となったことから、その身柄についても両者は激しく対立するのだ。しかも最後には、ヒドラの洗脳下にあったバッキーがトニーの両親を殺害していたことが判明。それでもスティーブがバッキーを守ったことで、二人の溝はとうとう決定的なものとなってしまう……。

ジョー・ルッソ監督は、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のトニーについて「(『シビル・ウォー』で)起こってしまったことに対する罪悪感を抱いているんです。けれども彼に(スティーブやバッキーを)許す準備があるかどうかはわかりません」と述べる。その一方でクリスは、トニーとスティーブについて「お互いを恨むような人間ではない」と言い切るのだ。
「きちんと分けて考えられると思うんです。自分たちの行動の多くについて、理にかなった方法を取って、感情を現実に作用させたりしない。(『シビル・ウォー』から)数年経ちましたが、二人とも、気持ちが切り替わっていない部分や、思い出さないようにしていることはあるかもしれませんね。」
『シビル・ウォー』のラストで、傷ついたトニーの元にはスティーブから携帯電話が届けられていた。トニー役のロバート・ダウニー・Jr.が「二人の関係は変化を迎える」と述べているあたり、おそらくこの電話が二人を結ぶキーアイテムとなるのだろう。
トニーとスティーブの対立によって、今やアベンジャーズという組織そのものが大きな危機にさらされている。では、かつてアイアンマンとのツートップであったキャプテン・アメリカの“現在地”はいかなるものか?
「この映画(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』)でもキャップはリーダーだと思います。ハイテクなアベンジャーズのシステムこそありませんが……どう言えばいいでしょうか。今でも彼は、心の奥底ではリーダーだと思うんですよ。これまでと同じような組織の系統が必要かはわからないですけどね。」
ちなみに脚本家のクリストファー・マルクスは、そんなキャプテン・アメリカにとって、史上最凶のヴィラン・サノスとの対決は「史上最も厳しい戦い」であり、「彼は思わぬ真実に向き合うことになるのかもしれません」と述べている。
クリス・エヴァンス

1981年生まれのクリス・エヴァンスは、1997年より俳優活動を本格的に開始。スカーレット・ヨハンソンが主演ではないにもかかわらず『スカーレット・ヨハンソンの百点満点大作戦』(2004)という恐ろしい邦題が付けられた作品で主役級を演じたり、『セルラー』(2004)でジェイソン・ステイサムやキム・ベイシンガーと共演したのち、彼はあるコミック・ヒーローと出会うことになる。それが『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(2005)、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』(2007)のジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ役、彼にとって“もう一人のマーベル・ヒーロー”だ。
その後『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ集団』(2010)を経てキャプテン・アメリカ役に就任した彼は、カメオ出演も含めると2011年から2019年まで毎年スーツに身を包んでスクリーンに登場。精力的な活動のかたわら、『スノーピアサー』(2013)や『gifted/ギフテッド』(2017)などに出演、2018年にはブロードウェイにて舞台デビューも果たしている。以前より監督業へ進出する夢も語っているなど、さらなる活躍が楽しみな人物だ。
そんなクリスは、2019年公開『アベンジャーズ/エンドゲーム(邦題未定、原題:Avengers: Endgame)』をもってキャプテン・アメリカ役からの卒業を明言している。「追い出される前に電車を降りたい」と語った胸中を観客が察することは難しいが、前述の通り、今後のキャリアにも期待がかかる。残り2本、クリスはどんなキャプテン・アメリカを見せてくれるのか?
映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は2018年4月27日より全国ロードショー。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』公式サイト:http://cpn.disney.co.jp/avengers-iw/