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【ネタバレ】『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ラスト解説 ─ エンディングの驚くべき演出、浮き彫りになるアメリカの闇

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

この記事には、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のネタバレが含まれています。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
画像提供 Apple

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ラジオドラマで語られたこと

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』では、オセージ族の持つ富を乗っ取ろうとする白人たちの醜悪ぶりが晒されることとなった。連続殺人事件の首謀者は、オセージ郡で“キング”と呼ばれた有力な牧畜業者、ウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)。善人の仮面を被っていたヘイルは、オセージ族の遺産を我が物とすべく、甥のアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)に民族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と結婚させ、裏で彼女の殺害を画策していたのだ。

モリーは幸い生き延びることができたが、彼女の姉妹や母親をはじめ20人以上のオセージ族がヘイルの餌食となった。モリーが政府に捜査を懇願したことがきっかけとなり、1人の捜査官が町に派遣され、事件は解決へと向かっていった。ヘイルに逆らうことができず殺人事件に関与したアーネストは、寛容にも悪行を咎めなかったモリーから見放され、叔父と共に監獄へ収容された。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
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エンディングでは、本編で描かれた連続殺人事件が十数年後のアメリカのラジオドラマで放送されていたものだと判明する。狂言回しの進行に合わせ、舞台では役者たちが事件を再現していた(役者たちの中にはミュージシャンのジャック・ホワイトや俳優のラリー・フェセンデンの姿も見られた)。最後は番組のプロデューサーが、1937年に糖尿病で亡くなったモリーの死亡記事を読み上げ、こう締めくくる。「殺人に関する言及は一切無かった」。

番組プロデューサーを演じたのは、監督のマーティン・スコセッシその人だ。スコセッシといえば、『タクシードライバー』(1976)や『キング・オブ・コメディ』(1982)など自身の監督作にカメオ出演したことでも知られるが、本作ではより重要な役割を自ら担ったと言える。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

エンディングでは劇中劇という形式が取られたが、これは史実を基にした演出だ。1930年代前半、アメリカで放送されていた「The Lucky Strike Hour」というラジオドラマのいちエピソードでは、オセージ族の一件がドラマ化され、アメリカ合衆国連邦捜査局FBIで初代長官を務めたジョン・エドガー・フーヴァー本人も出演した。

本作の原作小説『花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』の作者・デイヴィッド・グランは著書の最後に、ラジオドラマに出演したフーヴァーはFBIを宣伝するために事件を利用した旨を記しており、劇中で描かれたような誠実さは存在しなかったことが明かされている。この事実を踏まえた上でスコセッシが作り変えた劇中のラジオドラマを振り返ると、アメリカの空虚な闇が浮かび上がってこないだろうか。

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当初、本作は原作の形式に沿って、事件を解決に導いたトム・ホワイト捜査官を主人公として物語を進める予定だった。スコセッシいわく、脚本作業にディカプリオが「この物語の心臓はどこにあるのでしょう?」と尋ねに来たことがきっかけで、オセージ族の視点から伝えられることになったという。結果的にこの英断は、事件を“好機”としてしか捉えていなかった当時のFBIおよびアメリカへの痛烈な風刺となった。

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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