【ネタバレ】『ルイス・ウェイン』悲劇シーンの鳥肌解説 ─ 構図に隠された意図とは?納得の理由が判明

この記事には、『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』のネタバレが含まれています。

『ルイス・ウェイン』悲痛な洪水シーン撮影秘話
妻を失い、妹のマリーは精神錯乱に陥り、さらには「彼の偉大な師で親友」である最愛の猫ピーターも亡くなってしまう。ピーターは、妻エミリーとの生活に癒しと温もりを与えてくれた唯一無二の存在だった。いよいよ独りぼっちになってしまったルイスは、悲しみから逃れるようにニューヨークへと向かう。
慣れない新生活でルイスの繊細な心は不安定になった。滞在先の一室で、ルイスはかつて自分を包んでくれた心地よい“電気”の記憶を思い出す。自暴自棄となりかけていたところ、今度は母が亡くなったという訃報が届く。
劇中では、ここでついにルイスの精神が崩壊してしまう。詳細は語られなかった幼少期の海難事故の記憶が蘇り、ルイスの頭の中で部屋が沈みゆく船となる。部屋から出ようとしても出られない。足元を見ると流水が襲ってくる。「沈んじゃう!沈んじゃう!誰か助けて!」とルイスは叫ぶ。やがてルイスの精神は完全に幼少期へと還り、「ママ!パパ!助けて!」と泣きじゃくる。そこにはもう、彼を救済してくれる者はいないのだ。
ルイスの悲しみの記憶が水となって部屋を満たすと、ついに窓ガラスが割れ、その精神は悲劇の洪水の中に溺れる。咄嗟に思い出されたのは、優しかったエミリーの柔らかな横顔。そんな彼女ももういない。ルイスは溺れもがきながら嗚咽する。しかし、現実で清掃員が部屋の扉を開けて見たのは、パジャマ姿で「ママ…パパ…助けて、溺れちゃうよ!」と泣きじゃくる中年男性だった……。
「そのシーンは、鍵となる重要なものでした」と、ウィル・シャープ監督はTHE RIVERのインタビューで撮影秘話を語る。
「3日がかりで撮影しましたね。まず最初にスタジオで水のシーンの一部を撮り、それからスージー・デイヴィスというデザイナーのチームが、水の入ったタンクに沈んでいけるような仕組みを用意してくれました。ベネディックトは実際に水の中に沈んだ状態で演技をしているんです。背景にプロジェクターで投影するようなものもありましたが、ルイスの感情を表現するため、もっとリアルな演出にしたかった。だから古風な特撮にこだわったんです。
それからミニチュア撮影の日もありました。彼の頭の中にある、船が沈没していく子どもの頃の悪夢が復活して、彼を呑み込むところの表現です。あれはミニチュア・タンクで撮影しました。水の波は手で起こしています。ローフレームレートを使うことでカクついた表現にしています。ウォン・カーウァイがよく使うテクニックですよね。」
身体的にリスクもある撮影で、ベネディクト・カンバーバッチは溺れ慌てながら泣き顔を見せる、難易度の高い演技を披露した。「ベネディクトの惹きつけるような演技には驚かされましたよ」と監督。「僕も大好きなシーンなので、気に入っていただけてすごく嬉しいです」。