【解説】『シング・フォー・ミー、ライル』主人公役ショーン・メンデスとサントラの魅力

『グレイテスト・ショーマン』『ラ・ラ・ランド』の音楽スタッフが贈るミュージカル最新作『シング・フォー・ミー、ライル』が絶賛公開中だ。
本作の見どころは、なんと言っても「歌をうたうことだけで自分の感情を伝える」奇跡のワニ、ライルたちが織りなす珠玉の名曲の数々。あのショーン・メンデスが本国版の歌を担当した本作のきらびやかな楽曲たちについて、音楽ライターの松永尚久氏が特別に解説する。
『シング・フォー・ミー、ライル』の音楽

児童文学作家であるバーナード・ウェーバーにより1962年に刊行され、その後世代を超えて親しまれる絵本シリーズ『ワニのライルのおはなし』を原作に、『ラ・ラ・ランド』(2016)、『グレイテスト・ショーマン』(2017)などを手がけ、オスカー(R)やゴールデン・グローブなどそうそうたる映画賞を獲得。現代のミュージカル映画を代表する存在となっているパセック&ポール(ベンジ・パセックとジャスティン・ポール)が音楽を監修。NYの摩天楼を舞台に、人々とワニとの心温まる交流を描き、感動と熱狂を呼んでいる映画『シング・フォー・ミー、ライル』。
なかでも話題になっているのが、(英語版)主人公であり、歌をうたうことだけで自分の感情を人間に伝えられるという特別な才能を持った、ワニのライル(声)を演じている、ショーン・メンデスだ。2015年にアルバム『Handwritten (ハンドリトゥン・輸入盤のみ)』でデビュー。その後リリースしたアルバムは最新作である4作目のオリジナル盤『ワンダー』まで、すべて全米チャート1位を獲得、第61回グラミー賞では2部門にノミネートされるなど、ミュージシャンとして華々しい記録を残している。

また、人気ファッション・ブランドのモデルを務めるなど、幅広い分野で活躍。米TIME誌では『世界で最も影響力のある100人』に選出されるなど、ライフスタイルまでもが注目されているカルチャー・アイコン。2019年には「ショーン・メンデス財団」を設立するなど、社会活動にも精力的に取り組んでいる。ここ日本でも、2019年に横浜アリーナでの単独公演を成功させるなど、絶大な人気を獲得しているシンガー・ソングライターだ。ちなみにこの作品が、自身初の映画(声優)出演となる。
ミュージカルとポップス、それぞれに時代の最先端を創造している才能が、タッグを組み制作した楽曲の数々。これらは、アルバム『シング・フォー・ミー、ライル – オリジナル・サウンドトラック』として日本盤が発表された。
収録されているのは、どんな人(動物)でも、NYならば夢を叶えることができる、世界の頂上に立つことができるというメッセージが伝わる「トップ・オブ・ザ・ワールド」。現在はどん底な状態であったとしても必ず夢を掴むことができることを伝える映画のキー・ソングになっている「テイク・ア・ルック・アット・アス・ナウ」(アルバムには4ヴァージョンを収録)。人生にレシピなど存在しない、それを破り捨てて自由に自分の思う通りに前進していくことの大切さを歌った「リップ・アップ・ザ・レシピ」。また、夢が破れて落ち込み、疲れ果てた気分を表現した「キャリード・アウェイ」といったパセック&ポールが手がけ、ショーンおよび出演俳優がヴォーカルを務めた楽曲のほか、エルトン・ジョンやスティーヴィー・ワンダーといった時代を超えて愛されるスタンダード・ナンバー。さらにはショーンによる書き下ろし曲「ハートビート」も加わった、豪華なラインナップだ。

「この『ハートビート』は、長い間温めていた、光と愛について綴ったもの。ずっと発表するタイミングを考えていたのだけれど、この作品のために残しておいたものだったんだと気づいた」とショーン。
大切な人、存在と出会った瞬間に起こる胸の高鳴りをゴスペル風なコーラスと、ヒップホップ的な刻みのよいビートで表現している楽曲。これは映画のラストのエンドロールで流れているのだが、ストーリーで描かれたライルとの日々、時間を思い出すと同時に、これからも心を躍動させるような人生をライルと一緒に走り続けたいという気分にさせる。作品のために熟成された楽曲であることに納得がいく仕上がりだ。
普段は、自身の日常で生まれたリアルな感情や風景を音楽にすることが多いショーン。ここでは、歌声のみで自分から派生していない登場キャラクターの孤独や不安、喜びなど、さまざまな感情を表現しなくてはいけないという、かなり難しい<演技>を初挑戦にして求められた訳であるが、それをスマートに表現している。ゆえに、オリジナル楽曲とは異なる魅力を感じられたというか。表現者として、さらに成熟したショーンを感じられる作品になっている。

「音楽には、いろんな意味を持たせることができる。作品を観ていると、その世界に没頭してしまうから、気づかないのかもしれない。しかし楽曲のみに触れると、彼ら(パセック&ポール)がどれほどの情熱を注いでこの映画と向き合っているのかがわかったというか。とても複雑かつ、素晴らしい楽曲ばかりで、本当に驚いた」とショーンも語る。
音楽を通じた出会いによって巻き起こる、奇跡と感動の映画『シング・フォー・ミー、ライル』。サントラを聴いていると、それだけでもストーリーが浮かんでくるようなクオリティの高い楽曲ばかりが揃っている。ゆえに、映画の余韻として楽しんでいただくのはもちろんであるが、純粋に音楽のひとつとして堪能しても、自分なりのドラマが見えてくるというか。人生に不可能なことなんて何もない。さまざまな奇跡のような魔法がいろんな場所に待ち受けていると感じることができる。つまり音楽には無限の可能性があることを教えてくれる作品になっていると思う。
文:松永尚久
ショーン・メンデス、ビリー・アイリッシュ、ナイル・ホーランなどのライナーノーツ執筆のほか、ファッション・メディアでの記事掲載などもしています。
『シング・フォー・ミー、ライル – オリジナル・サウンドトラック』
- トップ・オブ・ザ・ワールド – ショーン・メンデス
- アイ・ライク・イット・ライク・ザット – ピート・ロドリゲス
- テイク・ア・ルック・アット・アス・ナウ – ハビエル・バルデム、ショーン・メンデス
- ハートビート – ショーン・メンデス
- バイ・バイ・バイ – クレア・ロージンクランツ
- 愛するデューク – スティーヴィー・ワンダー
- リップ・アップ・ザ・レシピ – ショーン・メンデス、コンスタンス・ウー
- ウィ・メイド・イット – アンソニー・ラモス
- ステッピン – ギャップ・バンド
- テイク・ア・ルック・アット・アス・ナウ (リプリーズ) – ハビエル・バルデム、ショーン・メンデス
- エクスプレス・ユアセルフ – チャールズ・ライト・アンド・ザ・ワッツ・103rd・ストリート・リズム・
バンド - テイク・ア・ルック・アット・アス・ナウ (ライル・リプリーズ) – ショーン・メンデス
- キャリード・アウェイ – ショーン・メンデス
- テイク・ア・ルック・アット・アス・ナウ (フィナーレ) – ショーン・メンデス、ウィンズロウ・フェグリ
ー、ライル・ライル・クロコダイル・アンサンブル - クロコダイル・ロック – エルトン・ジョン
国内盤発売中。(税込2,750 円 / UICL–1151)
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