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『アベンジャーズ』マーベル・スタジオ誕生と成功の物語 ─ 『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』刊行にあたって

『アベンジャーズ』シリーズでおなじみ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を手がけるマーベル・スタジオには長い歴史がある。いまやハリウッド屈指の人気フランチャイズとなったMCUだが、その道のりは常に順風満帆というわけではなかった。

2020年9月26日に刊行された『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』(すばる舎)は、マーベル・スタジオがいかにして生まれ、MCUをいかに成功に導いたのか、その秘密をじっくりと明らかにする一冊だ。原書タイトルは『THE MARVEL STUDIOS STORY』、すなわち「マーベルの物語」ではなく「マーベル・スタジオの物語」なのだから、これは従来あまり語られてこなかった切り口である。

このたびTHE RIVERでは、本書の翻訳を担当された上杉隼人氏から、THE RIVER読者のための特別なイントロダクションをご寄稿いただいた。ぜひここを出発点として、マーベル・スタジオが世界に送り出すヒーローたちや、クリエイティブとビジネスの秘密に迫ってみてほしい。

『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』刊行にあたって/上杉隼人

「まずキャラクターがとても魅力的です。マーベルは現実的で、欠点や問題を抱えたキャラクターを作ろうとしました。スタン・リーも言っていたと思いますが、マーベルのヒーローは超人的な能力によって地球を救いますが、普通の人間たちと同じような問題に日々苦しんでいます。だからこそ魅力的なのです。
 そしてストーリーもとてもいい。「弱いヒーロー」たちが正しいことをする、困っている人たちを助ける、すごいことを成し遂げる。これにみんな惹かれます。」

『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』を翻訳刊行するにあたって、著者チャーリー・ウェッツェルにインタビューを行い、マーベルの最大の魅力は何かとたずねたところ、上のような答えをもらった。

本書でもウェッツェルは次のように記している。

「リーが作り出したスーパーヒーローは超人的能力を備えているが、弱い部分もある。個人的に問題を抱えていて、人とうまく付き合えない。当時まだ話題になることがなかった『内的葛藤』に苦しんでいたのだ。超人的能力でスーパーヒーローとして活躍できるかもしれないが、普通の人間と同じように日々の問題にも対処しなければならない。」

確かにマーベルのスーパーヒーローは完全無欠ではない。スパイダーマン/ピーター・パーカーは言うまでもなく、キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースも、ソーも、ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフも、ホークアイ/クリント・バートンも、ハルク/ブルース・バナーも、アイアンマン/トニー・スタークでさえ、内面に弱い部分を抱え、苦しんでいる。
われわれがアベンジャーズの映画に感動するのは、こうしたキャラクターたちが愛しい人たちを救うために己の弱さを克服し、悪を倒して地球上の人たち全員を幸せにしてくれるからだ。
本書はスタン・リーが作り上げたマーベル・ヒーローの原点というべきこの特徴を改めて教えてくれる。
だが、本書はマーベルのコミックとヒーローの歴史を語るものではない。一度は倒産に追い込まれたアメコミ会社が、興行収入2兆3,000億ドルを稼ぎ出すまでの世界最大級のエンターテインメント会社に成長を遂げる軌跡と、それを実現した営業戦略を伝える一大ビジネス・ノンフィクションだ。
「訳者あとがき」にも書いたが、本書がマーベルをモデルに読者に伝えようとすることは3つある。

1. 企業はいかに収益を増やし、手に入れるか?

マーベルはコミックや関連グッズの売り上げだけで社を支えることがむずかしくなり、自社の知的財産といえるキャラクターを最大限活用し、彼らをフィーチャーした映画を自前で制作、配給することにした。時代の推移とともに顧客が求めるものを提供するために、これまでの経験と知識を生かしつつ、新しいビジネス・モデルを打ち立てなければならない。
 マーベルの成功例から、このことが学べるだろう。

2. 創造性と売り上げのバランスをいかに取るべきか?

社員に存分に創造性を発揮してもらいたいし、それができる環境を作らなければならない。だが、十分な売り上げがなければ、どうにもならない。経営者は昔からこの問題に悩んできたし、マーベルもそうだ。
だが、マーベルは映画制作を通じて、このふたつを見事に実現した。

3. 長年顧客に愛されてきた商品の持ち味を失わず、常に新鮮味あふれるものにする。

歴史のある企業は自社の昔の商品やサービスを贔屓にしてくれる顧客の期待を裏切ってはならない。ただ、会社の未来を考えれば、これまで作ってきたものだけに頼っているわけにはいかかない。常に新しい顧客を取り込む新商品、新サービスの開発が必要だ。
拡大しつづけるマーベル・シネマティック・ユニバースは、これを現在進行形で成し遂げている。

マーベルのビジネス戦略と軌跡を論じるうえで、マーベルのキャラクター、演じる役者はもちろんのこと、経営にからんだ人たちについての知識が日本人の読者には必要かもしれない。担当編集者と相談のうえ、原書にはないが、こうした情報を注にして紙幅が許す限り盛り込むことにした。その数は213にもなる。加えて、アイザック・パルムッター、アヴィ・アラッドなど、マーベルの舵取りにおいて重要な役割を担った人たちの写真も入れた。
THE RIVERを毎日チェックしているみなさんをはじめ、マーベルに興味のある人たちのあらゆる関心に応えられる1冊にしたい。本書を翻訳、制作しながら、常にそんな思いに駆られていた。

あのマーベルにも苦しい時代があった。「弱いヒーロー」たちとそれを乗り越えたからこそ、現在の繁栄がある。
新型コロナウイルス感染拡大により、フェーズ4の第1作『ブラック・ウィドウ』を含めてマーベル・シネマティック・ユニバースの映画の公開が遅れているが、われわれがふたたび映画館にアッセンブルし、アベンジャーズの映画を楽しめる日が来るまで、本書をご覧いただき、マーベルの苦闘と成功の軌跡を振り返っていただければ、訳者としてこれほどうれしいことはない。

なお、THE RIVERの読者3名様に、すばる舎様のご提供により、本書『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』を特別にプレゼントいたします。こちらをご覧ください。たくさんのご応募、お待ちしております。

上杉隼人(うえすぎ・はやと)

翻訳者(英日、日英)、編集者、英文ライター・インタビュアー、英語・翻訳講師。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科(現在の大学院の前身)修了。『アベンジャーズ エンドゲーム』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』(いずれも講談社)など、マーベル、アベンジャーズ、ディズニー関連書を多数翻訳。訳書に『スター・ウォーズ』全作(エピソード I 〜IX、講談社)、リチャード・ホロウェイ『若い読者のための宗教史』、ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン『若い読者のためのアメリカ史』、マット・タディ『ビジネスデータサイエンスの教科書』、ニア・グールド『21匹のネコがさっくり教えるアート史』(いずれもすばる舎)、ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』(岩波現代文庫)、ウィリアム・C・レンペル『ザ・ギャンブラー ハリウッドとラスベガスを作った伝説の大富豪』(ダイヤモンド社)、ベン・ルイス『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』(集英社インターナショナル)ほか多数(70冊以上)。

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THE RIVER編集部THE RIVER

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