【解説】マーベル・スタジオ、MCU作品の発表ペースを落とす意向 ─ 「アイアンハート」「エコー」2024年以降に繰り下げの可能性

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品発表ペースが、当初の予定よりも大きく落ちることになりそうだ。『キャプテン・マーベル』(2019)の続編映画『ザ・マーベルズ(原題)』の米公開が3ヶ月延期されたこと、以前『ブレイド(原題)』の公開が2024年9月まで大幅延期されたことはその一環とみられる。
この動きは映画だけにとどまらない。米The Hollywood Reporterによると、今後ディズニープラスでリリースされる作品のうち、2023年内に確実に配信されるのは「ロキ」シーズン2と「シークレット・インベージョン」のみで、年内配信予定だった「アイアンハート(原題)」や「エコー(原題)」および「ホワット・イフ…?」シーズン2は2024年以降に繰り下げられる可能性が高いという。「アガサ:カヴン・オブ・カオス(原題)」は2023年終盤の配信予定だが、今回の報道に言及はない。
こうなると現時点の計画は、2022年7月に発表されたフェーズ5のラインナップとは大きく異なる。しかしマーベル・スタジオは、2021~2022年(2年間)のフェーズ4だけで合計18作品(映画7作・テレビシリーズ8作・そのほかテレビ作品を3作)を展開していた。コロナ禍の影響があったとはいえ、2016~2019年(4年間)のフェーズ3が映画11作だったことを考えると、供給過多の感は否定できなかっただろう。
また報道によると、マーベル・スタジオは現在企画中のテレビシリーズ「ノヴァ(仮題)」も開発ペースを落としているとのこと。これに伴い、現時点で配信時期が発表されていない、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2020)のデスティン・ダニエル・クレットン監督が製作する「ワンダーマン(原題)」、『ブラックパンサー』シリーズのスピンオフドラマ(タイトル未定)、「ワンダヴィジョン」(2021)から派生する「ヴィジョン・クエスト(原題)」などが玉突き的に遅延することも考えられる。
もっとも前触れはあった。2022年10月に『ブレイド』公開の大幅延期を決めた際、マーベル・スタジオは「(映画を)正しく成立させたい」として企画の立て直しに時間を費やすとともに、フェーズ6の最終作『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)」の公開も半年遅らせて開発時間を確保している。その後、2022年12月には“フェーズ5~6のラインナップが再検討されているらしい”との噂も囁かれていたが、「火のないところに煙は立たぬ」とはまさにこのことだったのだ。
これを後押ししたのが、配信戦略に注力していたボブ・チャペックCEOが事実上更迭され、前CEOのボブ・アイガー氏が電撃復帰を果たしたことだろう。一時退任まで、ディズニーのトップとして長らくMCUを監督してきたアイガー氏は、CEOへの復帰後、マーベルや『スター・ウォーズ』などの巨大フランチャイズは高額の製作費を必要とする以上、各作品をより丁寧に扱う必要があると述べたのである。
2022年2月、マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、MCU作品の強みは「時代精神を捉えているところ」だとコメント。しかし「プロジェクトの数が多すぎるとそれが難しくなる」と述べ、「ディズニープラス作品の公開ペースを変え、それぞれが輝けるようにします」と明言していた。「作品の間隔を空けるのか、1年間の作品数を減らすのか?」との問いには「どちらもあると思います」と答えている。
ファイギ社長いわく「ストリーミングの面白いところは“いつまでもそこにある”ということ。だから人々が何度でも楽しみ直せる」。配信作品でデビューしたミズ・マーベルは『ザ・マーベルズ』で映画に初登場するが、「映画を観てから、そのあとドラマをもう一度観てもらえたらうれしい」と語っている。逆に言えば、あらかじめ「ミズ・マーベル」(2022)を予習しておくべき作品にはならないということだろう。
▼マーベル・シネマティック・ユニバース の記事
Sources: The Hollywood Reporter, Entertainment Weekly