【インタビュー】映画『モンスターハンター』なぜ別世界? ─『メタルギアソリッド』からの影響、監督が原作愛を語る

実写映画版『モンスターハンター』が、2021年3月26日(金)に待望の日本公開を迎えた。突如発生した超巨大な砂嵐に遭遇してしまい、謎の世界に飛ばされた特殊部隊を率いる隊員アルテミス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が、ミステリアスなハンター(トニー・ジャー)と手を組み、モンスターと決死の戦いに挑む姿が描かれる。想像を絶する世界へ一狩りいこうぜ!
この度THE RIVERは、『モンスターハンター』にてメガホンをとったポール・W・S・アンダーソンにインタビューを実施。貴重な機会の中で、原作との出会いから映画化の経緯や、ゲーム『モンスターハンター:ワールド』『メタルギアソリッド』からの影響、最も好きな武器、気になる続編などについて訪ねてみた。

『モンスターハンター』との出会い

──いきなりですが、ディアブロスを監督と一緒に狩りにいきたいです。
ディアブロスはミラと一緒に狩りに行くと良いですよ。私よりも上手なので(笑)。
──それも楽しそうですね。いきなり個人的な質問で大変失礼しました。それでは本題に入らせていただきます。ゲーム『モンスターハンター』シリーズとの出会いや、映画化までの経緯について詳しく教えてください。
『モンスターハンター』をはじめてプレイしたのは12年前のこと。日本では当時から非常に良く知られているゲームでしたが、日本以外ではそこまで認知されていませんでした。そもそもほとんど日本だけで展開されているような作品だったので。そこでたまたま友人から、この作品について教えてもらい、はじめてプレイしました。『ジュラシック・パーク』のサム・ニールのキャラクターみたいな気分でしたよ。恐竜をはじめて見て驚くみたいな。
モンスターだけでなく、風景や自然が本当に素晴らしく作り込まれていて、そんなものは他に見たことがありませんでした。その世界観に一瞬にして虜になり、これは素晴らしい映画になると確信したんです。壮大なフィールド、巨大なモンスター、壮大なストーリー、これこそビッグスクリーン向けの作品として必要なものだと。それで私自身が作りたいとも思いました。それが10年前のことで、その翌年ぐらいから映画化について、カプコンと話し始めたという流れですね。私にとっては夢のような企画というわけです。
『モンスターハンター:ワールド』からの影響

──ゲーム『モンスターハンター:ワールド』を彷彿とさせる場面が多く登場しますが、その理由はなぜでしょうか?
『モンスターハンター:ワールド』の要素を多く取り入れた理由は、実のところセールスになります。シリーズの中でも、『モンスターハンター:ワールド』は世界中で人気を博したものなので。5年前ぐらいまでは、『モンスターハンター』のゲームについてアメリカやヨーロッパで話してもほとんどの人は聞いたことがありませんでした。ただ、『モンスターハンター:ワールド』で、大きく状況が変わりましたよね。だから、『モンスターハンター:ワールド』に寄り添った作品にするべきだと考えたんです。
──そのほかの『モンスターハンター』シリーズからは参考になされなかったのですか?
そのほかの作品の要素や神話も取り入れたいと思いましたよ。実際に取り入れたのが、劇中でも描かれる古代文明です。ミステリアスでありながら、テクノロジーにおいてはかなり発達している。それが興味深くて、それが空の回廊であろうと空の展望台であろうと、何としても映画に取り入れようと思ったんです。
また、モンスターもそのほかのシリーズから復活させたいと思いました。それが、私が個人的に気に入っているネルスキュラです。残念ながら、『モンスターハンター:ワールド』には登場しませんが、とにかく見た目も怖くて不気味で、デザインが素晴らしいです。
このゲームにおけるデザインには本当に魅了されました。モンスターに関しては想像力で溢れていますよね。日本のデザインは、本当に強烈なものばかりで、世界中のどこを探しても日本に勝る国はありません。だからゲームをはじめてプレイしたときは本当に衝撃を受けましたし、フィルムメイカーとしてこんなに凄いものを映画化できることが光栄でならなかったです。
『メタルギアソリッド ピースウォーカー』からの影響

──モンスターを相手に現代兵器で戦う場面が登場しますが、『メタルギアソリッド ピースウォーカー』を彷彿とさせられました。『モンスターハンター』とのクロスオーバーでもおなじみのゲームですが、こちらについてはご存知でしたか?
もちろんです。『モンスターハンター』と『メタルギアソリッド』のクロスオーバーは、現代の軍隊と美しい神話の風景・生き物が見事に融合していて、私自身すごく感銘を受けましたので。
それと『モンスターハンター』のゲームにはいないキャラクターを映画に登場させたいとずっと思っていました。ゲームをプレイする時は、セットされたキャラクターではなく、オリジナルのキャラクターを作成しますよね。そうして現実世界から別の世界へと入り込んでいくわけですが、その感覚は本当に素晴らしかったです。
そんな感覚は新鮮な目を通してでなければ感じることは出来ないでしょう。だから、その世界を今までに見たことがないような、私たちの世界からのキャラクターを、映画に投入する必要があるとなったわけです。
──それでは、現代兵器だけでなく現実世界の人間が別の世界に足を踏み入れていくという展開も、『メタルギアソリッド ピースウォーカー』からの影響があったというわけですね。
『メタルギアソリッド』とのクロスオーバーのアイデアは本当に画期的だと思いました。極限の世界に現実世界の兵士を投入することで、現実世界にあるものがいかにこの世界では通用しないのかが浮き彫りになるので。私たちは、テクノロジーやガジェット、電話、武器、車に厚い信頼を置いています。ただこれらはどれも、『モンスターハンター』の世界では通用しないんですよ。それこそ現代兵器は、モンスターではなく人間を殺すために設計されているものですからね。
それとゲームをプレイしていくと、ゲームの醍醐味のひとつが失敗を重ねることであると気付きます。はじめてモンスターと戦う時はかなり苦戦したり、徹底的にやられたりしますよね。
それらの発想から、見知らぬ世界に迷い込むという設定を思い浮かび、どうにかなると思い込んでおり、タフなアルテミスチームをコテンパンにするという展開も思い付いたんです。もちろん最終的には、モンスターたちの狩猟方法をしっかりと身に付けて行く必要がありますけどね。この映画ではそれが、トニー・ジャーのキャラクターだったり、ロン・パールマンのキャラクターだったりするわけです。
モンスターでアクションシーンの差別化

──リオレウスやディアブロスは、『モンスターハンター』シリーズを代表する存在ではありますが、ネルスキュラはシリーズを通して登場している回数は決して多くありません。それにもかかわらず、ネルスキュラを登場させようと思った理由や意図を教えてください。
繰り返しにはなりますが、ネルスキュラは私のお気に入りなのと、ゲームをプレイしている時にとてつもなく恐怖を感じたからです。私をここまで怖いと思わせるのであれば、観客にも同じ思いを与えることが出来るのではないかと思ったわけですね。サスペンスに満ちた瞬間が映画には必要で、暗闇の中に巻き込まれていくという構図は最高だなと思いました。それと、モンスターと戦う場面が何回かありますが、同じようなアクションシーンが、映画を通して繰り返されていると思われないようにしなければなりませんでした。
──モンスターでアクションシーンの差別化を図ろうと考えたわけですね。
ディアブロスは、砂の中から突然現れて襲い掛かります。ネルスキュラは狭い空間に敵を追い込み、サスペンスに満ちたより強烈な雰囲気にさせます。そしてリオレウスは空を舞いますよね。とにかく、さまざまなタイプのモンスターを登場させることで、あらゆるアクションを見せられるようにしました。
──小型モンスターのアプケロスについてはいかがでしょうか?
ゲームの美しい世界観を描くために重要な存在だと思いました。壮観な風景の大地を探索している中では、アプケロスのような美しい生き物たちを目にしますよね。彼らは草食種であり、植物をただ食べたいだけで、人間を食べたいわけではないんです。劇中のように何かに巻き込まれることがなければ、基本的には暴れることも、人間に対して攻撃的になることもありません。なので、ゲームの世界観における美しさと不思議さを見せるためにも必要不可欠でしたね。
──オリジナルモンスターを映画の中で登場させようとは考えなかったのでしょうか?
それは全く考えませんでした。ゲームのモンスターのデザインに惚れ込んでいたので。だから、モンスターのデザインを細部まで正確に再現するために、(ゲーム『モンスターハンター』開発者の)藤本さんや辻本さんと長い時間かけて話し合いましたよ。
──モンスターが倒れ込む姿など、細かい動作まで見事に再現されていて驚きました。
ありがとうございます。とても長いプロセスでした。すべてのショットを完璧に仕上げるのに1年以上掛かりましたからね。私が東京に行って藤本さんと辻本さんと相談することもあれば、ロサンゼルスに彼らが来られて最新の編集を見るというようなこともありました。モンスターのビジュアルだけでなく、正しい動作を行っているかまで見てもらいましたよ。とても協力的で生産的な関係でしたね。彼らはこの世界の門番的な存在なので、彼らに納得してもらえれば、ファンも納得してもらえるだろうなと思っていました。
日本の製作陣からのアドバイス

──ファンの納得ということですが、『モンスターハンター』シリーズにはコアなファンがたくさんいますよね。そんなゲームを映画化することは怖くありませんでしたか?
ファンを喜ばせることが映画の要のひとつであるとは私自身も認識していました。だからこそ、藤本さんや辻本さんと緊密に協力することにしたんです。『モンスターハンター』の世界を作り上げたのは彼らふたりで、だからこそ彼らは自分たちの仕事に対しても、私の仕事に対しても誰よりも厳しく見定めてくださいました。ですので繰り返しにはなりますが、ふたりを喜ばせることが出来れば、ファンも満足させられるだろうと考えていましたね。
──何かふたりからもらった印象に残っているアドバイスはありますか?
藤岡さんからメモをもらうことがありました。ディアブロスの足指の爪はもっと尖っていたのですが、“もっと丸くする必要がある”というふうに書かれていたことを覚えています。“ディアブロスとのアクションシーンでそんなところに気付く人はいるのか?”と思ったりもしたのですが、藤岡さんが気付くのであれば、ほかのファンも気付くだろうと思い直しました。とにかくすべてを正しく描きたかったので、メモをもらうたびに調整しましたよ。
一番好きな武器はヘビィボウガン

──監督が一番好きな武器は何でしょうか?
ヘビィボウガンです。素晴らしい武器ですよね。私は遠距離から射撃していたいタイプなんです。だから、ミラの方が私よりも勇敢ですよね。彼女はゲームをプレイしているとき、相手の目の前に行き、双剣でひたすら斬りつけていますから。それにもかかわらず、私はいつも後ろにいます(笑)。
──そんなヘビィボウガンを劇中に登場させなかった理由はなぜでしょうか?
アルテミスのチームが既に発射体の武器を使っていたので、映画には登場させないことにしました。
──トニー・ジャーは劇中で大剣と弓を主に使っていますよね。そんなトニーは現実世界でも凄く強いわけですが、彼であれば武器がなくても、モンスターを狩猟できるとは思いませんか?
トニーは間違いなく超人ですが、それでもディアブロスと戦う時は流石に武器は必要です(笑)。ただ、トニーが超人であることは製作に本当に役立ちました。バク転を軽々しくやってのけるような人ですし、「ワイヤーを使わないようにしましょう。リアルでやります」といって、アクション映画界に革命を起こしてきた人ですからね。
そんな超人である彼の存在は、巨大な武器を扱う本作では必要不可欠でしたよ。ゲームでキャラクターを操作している時、そこに重力の法則はありません。それを映画では、生身の人間に求めるわけですが、トニーは本当に強くて器用で、巨大な弓と剣を同時に使いこなせるんですよ。そんな男は多くいません。本当に助かりました。
──ほかにも登場しなかった武器がありますが、これには何か理由はありますか?
15年以上も続いているシリーズなので、モンスターも武器もかなりの数が存在しますよね。ただ、それらをすべて登場させるのは現実的に無理がありました。それでカプコンと協力して、ファンが最も気に入っているものを調べて、それらだけは外さないようにしたんです。
そんなプロセスで劇中に登場させる武器を選んだわけですが、双剣に関しては、ミラがゲームをプレイしている時に使っていた武器だったので、そのまま採用しました。もちろん、双剣は認知度も高いですからね。それに、こういう時のために続編があるんですよ。
続編について

──続編といえば、すでに脚本執筆の作業に入っていると聞きましたが、いかがでしょうか。
続編でやりたいアイデアはもちろんあります。ただ今は、1作目で良い結果になることを祈っています。それが成功しなければ、2作目が作られることもありませんからね。
──そのアイデアについて何か教えて頂けないでしょうか?
そうですね。アイデアは間違いなくあるのですが、それを今ここで言いたいかはわかりません。ただ、テーマでいうと、今回の作品にとっても重要な古代文明については、間違いなくもっと探求したいと思っています。
日本ファンへのメッセージ

──最後に日本のファンへのメッセージをおねがいします。
私は日本に来て、このゲームのファンになりました。だからこそ、この映画を日本の観客に見てもらうことが楽しみでなりません。ゲームに忠実な作品として仕上げるだけでなく、全く新しい冒険を作り上げられたと思っています。とにかく日本の皆さんに気に入ってもらえることを心から祈っています。
映画『モンスターハンター』は、2021年3月26日(金)公開。