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「ムーンナイト」多重人格のヒーロー、「人格の切り替えが最大の恐怖だった」と監督 ─ 実写化の課題とポイント

ムーンナイト
(C) 2022 Marvel

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の新たなドラマシリーズ「ムーンナイト」が描くのは、MCU史上最もダークなヒーローであるムーンナイト/マーク・スペクター。脳内に響く彼の声に悩まされている博物館の売店員、スティーヴン・グラントが“もうひとつの人格”を受け入れた時、ムーンナイトが姿を現すことになる……。

第1話『もうひとりの自分』では、主演のオスカー・アイザックが、スティーヴンとマークというふたつの人格をさっそく巧みに演じ分けてみせた。製作陣は、この“多重人格のヒーロー”ムーンナイトをいかに描き出そうとしたのか? 米ComicBook.comにて、監督・製作総指揮のモハメド・ディアブが実写化のポイントを語っている。いわく、最大の功労者は脚本家のジェレミー・スレイター。Netflixドラマ「アンブレラ・アカデミー」(2019-)も手がける俊英だ。

「まず第一に、ジェレミー・スレイターのおかげだと言うほかありません。(コミックの)ムーンナイトにはさまざまなバージョンがあり、そのすべてが面白いのです。けれどもストーリーを作り上げるべく、スティーヴンを誰もが共感できる人物として描きながら、そこに突然まったく違う人格、スーパーヒーローの人間を登場させることにした。素晴らしいアイデアだと思いました。」

スティーヴンとマークはまるで異なる人格なのであり、これはMCUにもあまり類を見ないキャラクター造形である。同じくマーベル原作であれば、ソニー・ピクチャーズ製作の『ヴェノム』シリーズに近いところがあるものの、ムーンナイトの場合はどちらも人間なのだ。ディアブ監督は「マークとスティーヴンの間で観客を混乱させたかった」とも言っている。しかし、この選択はストーリーテリング上のリスクでもあった。

「(人格の)スイッチは、ストーリーテラーとしての最大の恐怖でした。誰もがスティーヴンを大好きになるけれど、いきなりスイッチが起こってマークが出てくる。彼のことは何ひとつわからないわけです。二人はよく似ているけれど、まったくの別人。しかもマークはとっつきにくい男ですからね。」

ごく普通の男であり、それゆえに観る者の広い共感を呼ぶスティーヴンと、スーパーヒーローだが謎めいているマーク。しかも、ムーンナイトというヒーロー自体はスティーヴンではなくマークに属するものだ。したがって観客には、そのどちらも好きになってもらわなければいけない……。物語としては大変なハードルだが、監督は「うまくやれたと思います」と自信をにじませた。「少なくとも、いくつかのエピソードを観てくれた人はそう言ってくれました」。

「ムーンナイト」の場合、シンプルに優れたスーパーヒーロー作品を作り上げるだけでなく、設定の根幹である解離性同一性障害(DID)を正しく扱うという課題もあった。しかし監督は、両者を混乱させながらも丁寧に描くことこそ、解離性同一性障害を正しく描くことだと捉えたようだ。「専門家の力を借りながら、敬意をもって描くことが大切でした。スーパーヒーローの世界を描く、ややファンタジー的な作品ですから、DIDの描写は正確なものではありません。けれど皆さんにも、(本作で)私と同じようにDIDを学んでもらえるだろうと考えています」。

ドラマ「ムーンナイト」はディズニープラスにて独占配信中。

Source: ComicBook.com

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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