Netflix「ONE PIECE」は、本当に漫画実写化の歴史を塗り替えそうだ ─ ついに配信開始、高評価の船出に

あの「ONE PIECE」がNetflixで実写ドラマシリーズ化されると最初に聞いた時、多くの人が「失敗するのではないか」と疑った。漫画の実写化には、ある程度の落胆は付きものだと誰もが学習しているからだ。
とりわけ、26年もの歴史をもつ「ONE PIECE」へのファンの思い入れは、生半可ではない。日本で最もファン考察が盛り上がるコンテンツと言って過言ではない「ONE PIECE」は、それだけディティールへの注目度も高い。熱心なファンは、劇中のさりげないセリフや、漫画のコマの隅々、単行本に挿入される原作者・尾田栄一郎の質問コーナー(SBS)などで語られる内容にまで目を光らせる。
加えて、「ONE PIECE」は漫画的表現を極めている。“悪魔の実”などによる漫画ならではのアクションや、人間離れした風貌のキャラクター、大胆な構図、背景の詳細な描き込み、“ドン!”などの独特なオノマトペ、そして、日本ならではの大袈裟なボケ&ツッコミ……。「ONE PIECE」を「ONE PIECE」たらしめる要素はたくさんある。
こういった作品が実写映像化される際、現実的な表現に置き換えて翻案されるケースは多い。例えば、カラフルなコスチュームは色のトーンを抑えたり、技の名前を叫ばなくなったり、もしもこのキャラクターが現実世界に生きていたらという解釈が加えられたり、といった具合だ。そして多くの場合、観客は「原作の醍醐味が失われた」と落胆するか、「これはこれでアリ」と割り切るか、そのどちらかになりがちだ。
マーベルやDCのようなアメコミ作品では、もともと原作に無数のバージョンが存在するので、実写化にもある程度の自由が得られる。一方で日本の漫画の場合、観客は原作に対する解釈が一致していることを期待する。スパイダーマンは何人いても良いが、ルフィは基本的には一人しかいないのだ。
本当に「ONE PIECE」は実写化に適した題材なのか?2023年8月31日、夏の終わりに満を持して登場した実写版ワンピースは、期待を上回る華々しい船出となった。米Rotten Tomatoesでは批評家スコア82%、観客スコア94%の高評価。SNSでは、イギリス、ブラジル、タイ、フランス,スペイン、アメリカでもトレンド入りを果たした。もちろん日本でもトレンド入り。目を通せば、高評価の投稿ばかりだ。

批評家たちのレビューにも、好意的な表現が目立つ。「細かいけれど重要である(原作の)奇妙なポイントを受け入れることで、Netflixの『ONE PIECE』は原作の素晴らしいところを守ろうとする姿勢を証明している」(New York Magazine)、「漫画の魂がきちんと生きている」(Slashfilm)、「原作を知らずとも没入できる」(The Straits Times)。題材の魅力と映像化の巧みさは、海外メディアにも一斉に評価されている。

個人的な主観として、「ONE PIECE」は実写化に成功していると思う。原作のビジュアルに忠実で、ショットも漫画やアニメ的な工夫が凝らされている。さすがに漫才的な掛け合いは控え目だが、それによって何かが欠けているような印象はない。
彼らが試みたのは、漫画やアニメを実現可能な範囲内で現実に置き換えることではなく、本来的な意味での“実写化”だ。麦わらの一味の出会いと結束の物語をドラマサイズに翻案した後は、ほぼ原作通りに映像化してみせた。衣装デザインもそのままだし、「強ェやつは技名を叫ぶんだ」。誰にも演じられるはずがないと信じられていたルフィが生きている。ゾロも、ナミも、ウソップも、サンジも実在している。特にコビーなんて、そのまま実写世界に飛び出してきたんじゃないか。

ビジネス的な成功の是非を総合的に判断するためには、もう数日ほど待つ必要がある。Netflixは毎週月曜日に視聴記録ランキングを更新するので、ここで初速の結果が判断できる。メディアでは、最近のNetflixのヒットドラマ「ウェンズデー」や、看板タイトル「ストレンジャー・シングス」のパフォーマンスと比較されることになるだろう。今はストライキ中なので微妙なところではあるが、Netflixからシーズン2更新の発表がなされるかどうかも重要な注目点になる。
スティーヴン・マエダらプロデューサー陣や、マーク・ジョブストら監督陣がかなり優秀な仕事をこなしたであろうことはもちろんのこと、やはり原作者である尾田栄一郎が自ら全面的に監修を行なった意義も大きいはずだ。製作陣も尾田を絶対とし、あらゆる脚色ではかならず尾田の同意と理解を得た。
決してメディアに顔を見せない代わりに、直筆のレターでファンに想いを伝える尾田は、この実写版がお披露目されるまでに何度か胸の内を綴った。舞台裏では、喧喧諤諤のやり合いがあったようだ。5月に出されたレター内の「それぞれのキャラクターも理解しつつも、育った文化も違い、エンタメについてのポリシーもスキルもベクトルも違い目指す場所は同じなのになぜ噛み合わない!ってお互いもどかしく、もう海外製作ムリでは!?ってとこまでもいきました」という箇所や、脚本草稿を読んだ際の「面白くないものを、面白いとは言えない」「僕はファンとの信頼関係がある。だから、絶対に嘘をつけない」というコメントに象徴的だ。

一度は頓挫に近い危険水域まで達していた実写化を諦めなかったのは、尾田に「実写化の歴史を塗り替えたい」という想いがあったから。これは途方もない目標でもあるが、配信開始後一夜にして、有言実行のものになろうとしている。もう、「海賊王に俺はなる」と叫ぶルフィの夢を、誰も笑い飛ばさないのと同じように……。
Netflix シリーズ「ONE PIECE」は独占配信中。