ロバート・パティンソン出演作の話だけをする ─ 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』から『ザ・バットマン』、2分半の短編まで紹介させて

『TENET テネット』(2020)

『ダークナイト』トリロジーを始めとする稀代のフィルムメイカー、クリストファー・ノーラン監督による『TENET テネット』(2020)により再注目・再評価されることとなったロバート・パティンソン。第3次世界大戦を食い止めるべく、国家を揺るがす巨大なミッションを命じられた「Protagonist=主人公」(ジョン・デヴィッド・ワシントン)とともに、任務を遂行する相棒ニールを好演し、新たなキャリアをスタートさせた。
物理学の修士号を有する秀才であるだけでなく、洒脱でユーモラスな一面もあり、常に一歩先から予測するかのように主人公の数々の窮地を救う頼もしい存在だが、決して自ら多くを語ろうとはしないニール。終盤、隠された秘密にようやく気付いた主人公が「なぜこのことを俺に黙っていたのか」と尋ねるとニールは「The policy is to suppress.(秘密が一番)」と返し、誰によるポリシーなのかと問われると「Ours my friend(僕”たち”のポリシーだよ)」と明快に答える。簡潔ながらも2人のブラザーフッドを顕すこのシーンは、それまでの張りつめたテンションをひとたび解いて、ラストへの更なる盛り上がりを加速していくことになる。

細部までノーランのこだわりが詰まった本作では、ロケーションごとに替わる2人のスタイリッシュな衣装も見事。出会いの場となるインド・ムンバイで着用しているサンド・カラーのスーツには少しくたびれた質感が、美術品保管倉庫”フリーポート”の襲撃計画を考えるノルウェー・オスロでは首元にショールをあしらって少しラフな雰囲気が演出されるなど、その時々でニールの人となりが透けているように見えるのも興味深い。
『悪魔はいつもそこに』(2020)

『TENET テネット』で見せた理想的なヒーロー像から一転、『悪魔はいつもそこに』(2020)では世俗にまみれた牧師役で、人間の裏の顔を演じ抜いた。トム・ホランド演じる少年アーヴィンは家族を失ったトラウマを抱え、祖母の家に引き取られるが、そこでは聖職とは名ばかりで女性を食い物にする卑劣な牧師(パティンソン)、汚職警官(セバスチャン・スタン)、猟奇殺人鬼カップル(ジェイソン・クラーク&ライリー・キーオ)と対峙することになる。渡る世間に鬼はなしというが、アーヴィンは閉塞的な田舎町で、神の救いを得られるのか。

表向きは穏やかだが、狂気が炸裂し始めると止まらないパティンソンの演技はまさに怪優と呼ぶのにふさわしい。ビル・スカルスガルド、ヘイリー・ベネット、ミア・ワシコウスカ、ハリー・メリングなど脇を固めるキャスト陣も実力派揃いの怪作だ。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)

『猿の惑星』シリーズのリブートを手がけたマット・リーブスによる新たな「バットマン」シリーズの第1作となった『THE BATMAN-ザ・バットマン-』はコロナ禍で2度の公開延期を余儀なくされ、2022年に満を持して公開を迎えた。ブルース・ウェイン / バットマンの若き日を描く本シリーズでパティンソンが演じるのは、これまでのよりマスキュリンでマチュアなバットマンとは少し趣が異なる、新たなバットマン像だ。
まだ経験に富まず、センシティブなバットマンはカーマイン・ファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)やオズワルド・“オズ”・コブルポット / ペンギン(コリン・ファレル)、ギル・コルソン検事(ピーター・サースガード)、そしてエドワード・ナッシュトン / リドラー(ポール・ダノ)たちに翻弄され、そして成長を遂げていく。

2025年10月3日に米公開予定の続編『The Batman Part II (原題)』にも続投するパティンソンがいかにヒーローとして進化し、そして何を抱えていくのか。現在準備中のペンギンのスピンオフドラマも物語は繋がる内容となっており、これから展開される一連の『バットバース』に更なる期待がかかる。
今後の注目作:『Mickey 17(原題)』
パティンソンの主演作として今後控えているのが、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で世界中の映画賞を総なめにしたポン・ジュノ監督の最新作『Mickey 17(原題)』だ。2022年2月に出版されたエドワード・アッシュトンによる小説『Mickey7(原題)』を原作とする本作は「ニヴルヘイム」と呼ばれる氷の世界を植民地化するための任務に派遣された調査団を描く。『ミナリ』(2020)『NOPE/ノープ』(2022)のスティーヴン・ユァン、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』(2022)のナオミ・アッキー、『ヘレディタリー/継承』(2018)のトニ・コレット、『アベンジャーズ』シリーズのマーク・ラファロなど、豪華なキャストが脇を固めている。
作品の詳細はまだ明らかになっていないところが多いが、『ハイ・ライフ』(2018)でも国の実験のため宇宙空間に投げ出され、非常な運命に晒される青年を演じたパティンソンにとってSFスリラーは十八番といってもよいだろう。ポン・ジュノ監督にとっては『パラサイト 半地下の家族』以来の映画作品となることもあり、世界中から注目を集めている。2024年3月29日米国公開予定。
オマケ:『Fear & Shame(原題)』(2017)
最後に、雑誌『GQ』がリリースしたパティンソン脚本による、2分半のショートフィルム『Fear & Shame(原題)』(2017)をご紹介しよう。ニューヨークのホテルに1人滞在中のパティンソンはお腹がすいたけど、外に出るのも恥ずかしいし億劫になっている。窓からホットドッグを食べている男性を目撃し、どうしてもあれが食べたい!と募るパティンソン。ホテルのミニバーではその欲求を満たすことができず、サングラスにキャップ、用意周到に外に出るが、気づかれたくないあまり挙動不審になってしまう。
何とかタクシーに乗り込み、念願のホットドッグ屋にたどりつき「これが僕が思い描いていたホットドッグだ!やったぞ!」と歓喜する様子は、スターも一人の人間なのかと微笑ましい。謎めいたキャラクターが多いパティンソンのファニーで可愛らしい素顔が覗けるので、ぜひご一覧あれ。
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