『ローグ・ワン』チアルート・イムウェ特集 ─ 「宇宙最強」ドニー・イェン演じる盲目の戦士よ、フォースと共に

個性あふれるキャラクターが数多く登場する『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)においても、特に高い人気を誇るのがドニー・イェン演じるチアルート・イムウェだ。『ローグ・ワン』の時代には滅びていたジェダイとフォース、思想を強く信じる僧侶で、「我はフォースと共に、フォースは我と共に」をまじないのように唱えている。ブルーの瞳は盲目のため見ることは出来ないが、厳しい鍛錬を重ねた身体は圧倒的な戦闘力を持つ。ジェダの聖都にある“ウィルズの寺院”の守護者であるチアルートは、相棒のベイズ・マルバスと行動を共にしている。
ここでは、『ローグ・ワン』人気キャラクター、チアルート・イムウェについてご紹介しよう。
チアルートとベイズ
圧倒的な強さを見せるチアルート・イムウェは、一体なぜ盲目になったのだろうか。また、いかにしてフォースに信念を捧げるようになったのだろうか。演じたドニー・イェンは米HeyUGuysのインタビューでキャラクターの背景設定を尋ねられているが、その答えは明かされていない。
「彼がどうして盲目になったのか、ベイズとの関係はどういうものだったのかといった背景設定は複数あるみたいです。もちろん役者としてはそこは聞いておきたくて、実際に教えてもらったんですが、僕からは言えないんです。」
相棒となるベイズ・マルバスとのコンビワークにも注目だ。かたやフォースの敬虔な信者であり、盲目で、棒術の達人。かたや巨大なエネルギー銃を背負った、手荒い闘士。一見デコボココンビに見えながら、2人は心の底から互いを信頼し、尊敬し、いざとなったら命だって投げ出す。
脚本のクリス・ワイツは、『スター・ウォーズ』の世界ではこうした”対象的な存在”が多く見られることを指摘している。たとえば、ハン・ソロとチューバッカ、R2-D2とC-3POがそうだ。クリスが言うには、制作の初期の頃に「チアルートはベイズの父親あるいは告解者のような存在だ、という見解に至った」という。
「ゆえにベイズは彼の罪の意識をチアルートに押し付ける──自分がフォースを信じていないにもかかわらずね。そしてチアルートは、ベイズがやがて贖罪を得られると信じている。」
出典:アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
ドニー・イェン 宇宙最強の男が『スター・ウォーズ』に出演した理由

香港が誇るアクション・スター ドニー・イェンは数々のアクション映画で知られるが、中でも彼を「宇宙最強」たらしめたのが、ブルース・リーの師である葉問(イップ・マン)を描いた『イップ・マン』シリーズのヒット。第一作『イップ・マン 序章』(2008)は香港電影金像奨で作品賞を受賞、続編『イップ・マン 葉問』(2010)は前作超えのヒットを記録した。
『スター・ウォーズ』シリーズへの出演のきっかけは、この『イップ・マン』シリーズの評価のためだった。「彼ら(ルーカスフィルム)が『イップ・マン』を観てドニー・イェンを欲しがっているということは聞いていました」とドニーは振り返る。
「彼らは、『ローグ・ワン』にイップ・マンを出したかったのです。でも僕は、もうありきたりな中国の武道家を演じたくはなかった。」
『スター・ウォーズ』を観て育ったわけではないというドニーは、別のインタビューで『ローグ・ワン』出演の理由を「決してお金のためではない」と明かしている。「僕が『ローグワン』の仕事を選んだのは、貴重な機会だと思ったからです。それから、息子がスターウォーズの大ファンでしてね。」
米Varietyによると、『ローグ・ワン』のオファーが初めてドニーに届いたとき、出演を引き受けるかどうかを悩んだようだ。ドニーは香港在住だが、『ローグ・ワン』に出演するとなれば、撮影のため家族と離れてロンドンに5ヶ月滞在しなければならない。しかし彼の杞憂をよそに、シリーズの大ファンだというドニーの子供たちは「何言ってるの?『スター・ウォーズ』だよ、出なきゃダメだよ」と背中を押したという。

ド兄さん スター・ウォーズで大暴れ
「宇宙最強」ドニー・イェンが、スター・ウォーズの世界でストーム・トルーパーをしばき倒す、それも棒一本で──。ドニー・イェン演じるチアルートの目の覚めるようなアクションは、『ローグ・ワン』劇中でもハイライトとなるひとつだ。
ルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミルですら、かつて「ライトセーバーの使い手でベストだったのは誰?」との問いに「『ローグ・ワン』でマーシャルアーツをやってた彼」と答えている(残念ながらマークはこの時、ドニー・イェンの名を失念してしまっていた)。「初めて見た時は、もう僕はライトセーバー使うのやめようかなと思わされましたよ。最高でしたね。」
実際にはライトセーバーを握っていないにも関わらず、ルーク・スカイウォーカー(役のマーク・ハミル)にライトセーバー引退を考えさせるほどキレのあるアクションを魅せたドニーにとって、『ローグ・ワン』でマーシャルアーツを披露することは自然だった。「僕はたくさんのマーシャルアーツをやってきた。9歳のときに始めて、それからいろんなスタイルを学んできました。」
ドニーは、「すべての映画で、僕は作品独自のマーシャルアーツをそれぞれ作っています」という。つまり、『ローグ・ワン』のアクションも、ドニーが考案したアイデアが盛り込まれているということだ。「『スター・ウォーズ』専用のマーシャルアーツをちょっとだけデザインしたんです。」
「正気か 私は盲目だぞ」
「業界の人たちは、僕の経験値を分かっている。」HeyUGuysのインタビューでは、ドニーがどのようにして殺陣に自身のアイデアを取り入れたかを語っている。「殺陣になると、僕に”どう思います?”って聞かれるんです。だから自然と殺陣に(自分のアイデアが)取り入れられていって。」
チアルートは、盲目である代わりにほかの神経を研ぎ澄まして戦う。これは撮影に挑んだドニーにも同様だった。撮影用のコンタクトレンズは、ドニーの視覚をほとんど塞いでいたのだ。
「難しかったです。思っていたよりだいぶ難しかった」とPeopleに語ったドニーは、HeyUGuysのインタビューでは「慣れるまでにしばらくかかりました」とも話している。アクション・シーンはもちろんのこと、ドラマを演じる上でも慣れが必要だった。
「たとえば、(ジン・アーソ役の)フェリシティ・ジョーンズと一緒に演じているところでは、彼女の目を見ることができない。ちょっとした反応やリアクションを取ることができないんです。」
ちなみに、撮影用のコンタクトレンズを装着していられるのは、もって3時間。装着している間もだんだんと瞳の不快感が増していき、3時間以内には「我慢できないほど」になったという。
もっとも、こうした不自由さがドニーにキャラクターとの一体感を与えた。「コンタクトレンズを装着しているからこそ、このキャラクターをもっとうまく表現できると思いました。心で感じることを学ばなければならなかったからです。そうすれば、このキャラクターをよりフォースに近づけられる。」
なお、キャラクターデザインの初期段階においてチアルートの瞳の色は「実際の白内障のような色」、つまり純粋な白色であった。しかし共同コスチュームデザイナーのグリン・ディロンは、デザインの整合性を我々の現実世界に準拠させることに疑問を覚えた。曰く、「『スター・ウォーズ』はリアリティ・ショーにはなれない」と。
そこで彼らは、盲目の瞳を青色にしたのだ。「私は青い目をした中国系のキャラクターは、とても目を引くだろうと言った。コーカソイド(※)やヨーロピアンでも大したことはないが、中国系のキャラクターならば、とても新鮮に映ると。」
(※:白人のこと)
フォースと共に
チアルートはフォースを信じたが、ジェダイやシスのようにフォースを扱うことは出来なかった。しかし、万物に宿るフォースの流れを理解することはできた。盲目ながらもしなやかな身のこなしはフォースのためでもある。その所縁を更に感じさせることに、チアルートの扱う棒の先端部分には、カイバークリスタルが埋め込められているという。
カイバークリスタルとはジェダイのライトセーバーや、デス・スターのスーパーレーザーの動力源となる鉱石。チアルートはこのカイバークリスタルから発せられる”倍音”を聞き取る事ができ、そのため棒の先端部分がどこにあるのかを認識することができるのだ。
『ローグ・ワン』の一行の中でも、最もフォースの神秘に近い心を持っていたチアルートは、劇中でもその信念に助けられて奇跡的な活躍を見せた。最後に、演じたドニー・イェンが語ったフォース観を記しておこう。
「僕たち誰もがフォースを持っていると思います。フォースをどう解釈するか、ということだと思います。強い信念は誰にだってある。どう気持ちを注ぐかの問題です。チアルートは日頃からその考えが分かっていたんでしょう。信念を要する目標や行いのために。」
我はフォースと共に、フォースは我と共に。
▼ 『ローグ・ワン』の記事
Source:HeyUGuys,Variety,People,My Crazy Good Life,ScreenRant,「アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」2016、ヴィレッジブックス