会員登録

Search

Rotten Tomatoes、宣伝会社のスコア操作疑惑が浮上 ─ 『オフィーリア』事件があらわにする構造の問題

米国の大手レビューサイト、Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)のスコアが宣伝会社の意向によって操作されていた──米Vultureの報道が大きな話題を呼んでいる。しかし、この事件の背景には、「だからRotten Tomatoesは信用できない」という性急な結論に回収できない大きな問題が横たわっている。

Rotten Tomatoesは、認証を受けた批評家や書き手(約3,500人)によるレビューを集計し、肯定的なものの割合を算出するサイト。全体の60%を超えると「Fresh(フレッシュ)」評価、これを下回ると「Rotten(腐った)」評価が与えられる。集計対象は大手業界紙からファンメディア、中小規模のブログまで。したがって、厳密にはレビューサイトというよりもレビュー・プラットフォームと呼ぶほうが正しい。

「オフィーリア事件」

このたび報じられたのは、2018年、映画宣伝会社のBunker 15が『オフィーリア 奪われた王国』(2018)のレビューを操作していたとの疑惑だ。当初この映画に寄せられた13のレビューのうち、7つは否定的な内容で、Rotten Tomatoesでのスコアは46%。したがって「Rotten(腐った)」の評価を受けたわけだが、Bunker 15はこの評価を逆転させるべく動いたとされる。

2018年10月、同社の社員は、まだ『オフィーリア』を観ていない批評家に「この映画は一部の批評家から少々厳しい評価を受けているようです(期待値が高すぎたのが原因でしょう)。チームとしては、さまざまな批評家の意見をもっと取り入れたい」とメールを送った。その批評家が“もし私がこの映画を嫌いだったら?”と尋ねたところ、書きたいことを書くのは自由だとした上で、「いい人たちは(低評価のレビューを)Rotten Tomatoesが記録しない小さなブログに書く。素晴らしいことだと思う」と応じたというのだ。また、そういう書き手は「私の想像以上に多い」とも。

Bunker 15の戦略は、有名な批評家の評価を得ることではなく、まだ無名の、時にはメディアを持たない書き手の評価を操作することだったようだ。批評1本につき、50ドル以上の報酬がBunker 15から支払われたと複数の書き手が証言している。また、同社は否定的なレビューを執筆した批評家に対し、評価の変更を求めたこともあったという。

こうした動きを経て、2018年10月から2019年1月にかけて、Rotten Tomatoesには『オフィーリア』のレビューが新たに8つ追加された。そのうち7つが肯定的な内容で、多くは過去にBunker 15の関与した映画について執筆した経験のある批評家によるものだったという。サイト上のスコアは62%となり、評価は「Rotten」から「Fresh(フレッシュ)」に逆転した。翌2月、配給会社のIFC Filmsは、本作の米国配給権を購入している。

Bunker15の創設者ダニエル・ハーロウは、同社がRotten Tomatoesの数値を操作するために批評家やライターを買収したとの疑惑を否定。むしろ「私たちのリストには数千人のライターがいます。その中には、製作者がスポンサーになったり、レビューの執筆で報酬を受けたりするシステムを作っている人たちもいます」と述べ、批評家側の責任を示唆するようなコメントを出した。

なお、Rotten Tomatoesは金銭の授受が関与するレビューを禁止している。Vultureの問い合わせを受け、Rotten Tomatoesは『オフィーリア』を含むBunker 15の作品をサイト上から削除し、レビューを執筆した批評家にも警告を送付した。声明には「我々はスコアの信頼性を重要視しており、一切の操作を容認しません。専門のチームがプラットフォームを定期的に監視し、疑わしい行為は徹底的に調査、解決しております」と記されている。




Writer

アバター画像
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

Tags

Ranking

Daily

Weekly

Monthly