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『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』監督、観客に挑戦したい ─ ファンに迎合すると「望まぬ結果に」

ライアン・ジョンソン
Photo by Dick Thomas Johnson https://www.flickr.com/photos/31029865@N06/25070162628/

あえてこのように言ってみたい。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)を手がけたライアン・ジョンソンは、非常に好戦的な映画監督だと。それは決して、Twitterにおけるファンとのやり取りや、インタビューなどでの発言に限ったものではない。挑発的な振る舞いが取り上げられやすい人物だが、根底にはクリエイター/アーティストとしての思想があり、それは作品の表面にも特徴的に現れている。またジョンソンの場合、刃の矛先が観客に向くことも少なくないのだ。

ポッドキャスト「Swings & Mrs.」に登場したジョンソン監督は、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の公開に先がけたタイミングで、再び意味深な発言に踏み切っている。『最後のジェダイ』が激しい賛否両論を呼んだことは誰よりも自分が知っているにもかかわらず、「(ファンを喜ばせようと)創作にアプローチするのは間違いだと思う」と述べたのだ。「むしろそんなことをすれば、真逆の結果につながってしまう」とさえ言っている。

「僕はひとりのファンとして、たとえ自分が観たいものをスクリーンでそのまま観られたとしても、“うん、いいね”という感じなんです。ニッコリ笑って、そのことには穏やかな気持ちでいられるかもしれないけれど、そこについて後からしっかりと考えたりはしない。それは本当の満足ではないんですよね。」

すなわちそれは、作品に自分の予想を超えてほしいという願いだ。「ショックを受けたい、驚きたい、ビックリしたい。文脈を組み立て直すような体験をしたい」というジョンソン監督は、「客席に座っている時は、ひとりのファンとして挑戦を受けたい」と言う。ファンとしての姿勢がこれであるから、自ら映画を撮るとなれば、その思いが表出するのも当然というものだ。

「劇場に行く時は、いつでも『スター・ウォーズ/エピソード5 帝国の逆襲』(1980)のような体験を期待します。感情が揺さぶられ、(作品と)つながることができて、納得できて、作品がきちんと心に届いてくる。そしてある意味では、かつて味わえなかったものを味わえる、という。」

こうした言葉通り、ジョンソン監督は『最後のジェダイ』で、まさしく世界中のファンに挑戦した。そして大きなショックを与え、驚かせたのだ。むろん、その試みが万人に受け入れられるかは別の問題である。しかし、その“好戦的”な態度には、ファンや観客に対する大きな信頼があっただろう。「観客はこの作品を、この展開を絶対に受け止められる」という信頼だ。そうした信頼感を抱いていないアーティストであったなら、そのような挑戦はまずしないはずである。

ともあれ、いまやジョンソン監督の挑戦は果たされ、バトンを受け取ったJ・J・エイブラムス監督の手でゴールテープは切られた。『最後のジェダイ』と『スカイウォーカーの夜明け』を見比べてみると、両者のアーティストとしてのスタンスの違いも浮き彫りになってくる。『最後のジェダイ』を観たら『スカイウォーカーの夜明け』を、『スカイウォーカーの夜明け』を観たら『最後のジェダイ』をチェックして、2人の取り組み自体をじっくりと味わってみてほしい。

映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は2019年12月20日(金)より公開中。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』MovieNEXは発売中。

ライアン・ジョンソン最新作『ナイブズ・アウト』はこちら

Sources: Swings & Mrs., IndieWire

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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