84分の濃密な時間を…天才ピアノ教師をイーサン・ホークが撮った『シーモアさんと、大人のための人生入門』レビュー
イーサン・ホークが一瞬で魅了された男
過去にも「ビフォアシリーズ」「6歳のボクが、大人になるまで。」と素晴らしい作品に多数出演し、今後も「ブルーに生まれついて」「リグレッション」と出演作が多数待っている俳優イーサン・ホークを魅了した人。それがこの映画の主演であるピアノ教師、シーモア・バーンスタインです。イーサン・ホーク自身ドキュメンタリー映画を撮るつもりはまるでなかったが、こう語っています。
「シーモアさんに出会ったその瞬間から、彼にすっかり魅了されてしまった。シーモアさんのようなメンターに出会うことが、いかに幸せなことかを、世の人々に知ってもらいたいと思っている。
シーモアさんのピアノレッスンは、人にいかに生きるべきかということにもつながる奥深い教えに満ちている。彼のシンプルな生き方から学べることは、あまりにも多い。」
シーモアさんの魅力
シーモアさんの淡々とした語り口でドキュメンタリーは進んでいきます。心に響く音楽とシーモアさんの語る話の一つ一つがあまりにも奥深く、84分の鑑賞時間はあなたにとって濃密な時間となるでしょう。
そんなシーモアさんが涙ながらに語る戦争へ出兵した時の話はあまりに生々しく、そして心苦しく、これが不協和音というのか…と思い知らされることでしょう。不協和音から美しいメロディーを追い求める姿は、こんなバックグラウンドがあったからこそなのかもしれません。
何度もピアノを弾くシーンが流れるのですが、その中でもシーモアさんが時に優しく、そして力強く踏むソフトペダルが作り上げる音楽に聴き入り、いつの間にかシーモアさんの作り上げる世界へと引き込まれ、ゆっくりと開いた扉に招待されているような感覚になるのです。
「低い音の美しさに、胸が苦しくなる」
そんな風にシーモアさんが語るラストのコンサートシーンは、映画館の環境での鑑賞を是非おすすめしたいです。
イーサン・ホーク初の監督作は、静寂でありながらも鑑賞後の心にはどこか温もりを感じられる、そんな素敵な作品でした。
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