【インタビュー】『スパイダーマン:スパイダーバース』日本人アニメーター 若杉遼 ─ ヒーロー映画の新たなる傑作、誕生の舞台裏

マーベルの人気ヒーロー、スパイダーマンを描いたアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は全世界の映画ファン・コミックファンに衝撃をもたらした。コミックがそのまま動いているかのようなアニメーション、シンプルかつ隙のないストーリーテリング、映画と現実世界を快感をもって結ぶ音楽……。まさしく「圧倒的」なクオリティを示した本作は、第91回アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞、その他さまざまな映画賞に輝いた。
スパイダーマン映画史上、ヒーロー映画史上最高傑作とすら呼ばれた、この“ヒーロー映画の新たなる傑作”に、ひとりの日本人アニメーターが携わっている。若杉遼氏だ。 このたびTHE RIVERでは若杉氏への取材を実施し、『スパイダーマン:スパイダーバース』が生まれた現場の様子や、創作へのこだわりを教えてもらった。ご本人による貴重なスケッチもぜひチェックしてほしい!
斬新な映像表現を支える、緻密な作業の数々
『スパイダーマン:スパイダーバース』は――これまで幾度となく語られてきたことだが――まるで3DCGではないかのようなアニメーション表現、コミックをそのままスクリーンに再現したかのような映像が大きな特徴だ。スパイダーマンやスパイダー・グウェン、スパイダーマン・ノワール、ペニー・パーカー、そしてスパイダー・ハム。それぞれ異なるタッチで描き分けられたキャラクターがひとつの画面に共存することも、本作の映像をさらに複雑かつ魅力的なものにしている。

若杉氏いわく、『スパイダーマン:スパイダーバース』で特に難しかったキャラクターはスパイダー・ハムとペニー・パーカー。CG作業はアメコミを参照しながら進められ、アクションシーンの演出やキャラクターの動きには日本のアニメ作品も参考にされている。
「グウェン・ステイシーやピーター・パーカー、マイルス・モラレスといったキャラクターはリアルなデザインなので、人間の動きを参考にすれば、ある程度説得力のある動きを作れます。ハムやペニーはある意味で独自の世界なので、独自のルールや物理を考えないといけませんでした」。

製作総指揮を務めたフィル・ロード&クリス・ミラーは、以前THE RIVERのインタビューにて、『スパイダーマン:スパイダーバース』の創作では「とにかく今までにないことをやろうとしていました」と語ってくれた。「ストーリーやアニメーションのスタイル、脚本、音楽、それらすべてで限界を超えたい」。 より優れたストーリーを目指して、脚本は製作終盤まで練り直されつづけ、決定版はギリギリまで出来上がらなかったという。
若杉氏は「ストーリーは製作中に変更されるのが普通くらいの感覚です」と述べつつも、本作については「“特に”変更が多かった印象でした(笑)」とコメントしている。
「ストーリーボードの作業が間に合っていなかったですし、映画の結末やラストのシークエンスも最後の最後まで変更がありました。それでも(変更されるたびに)毎回良くなっていったので、モチベーションが途切れることはなかったです。僕らの仕事はショットを終わらせる事ではなくて、面白い映画を作ることだと思っていますので。」
製作陣のこだわりは決して目立つ部分だけではない。かつてない映像表現を実現すべく、ボブ・ペルシケッティとピーター・ラムジー、そしてロドニー・ロスマンという3人の監督は画面の細部まで目を光らせた。見たこともないアニメーションは、地道で緻密な作業の積み重ねの上に成り立っているのだ。
「もちろん絵作りには細かい表現までチェックがありましたが、それ以上に演技やキャラクターの感情表現に対して、ほかの映画よりもさらに細かい指示があった印象でした。
たとえば、普段から、キャラクターの動きを確認するために自分たちが実際に動いてみて、撮影した動画をアニメーション作成の参考にすることがあります。普通、その動画は自分だけの参考資料になるのですが、『スパイダーバース』ではアニメーションの作業に入る前に、演技を確認するために動画を見せて欲しいというリクエストが監督から来ることが多かったです。ほかの映画では経験のないことでしたね。」

また本作では、モーションブラー(編注:動いているものを撮影した時に生じるブレのこと。CGの場合、通常は計算によって描かれる)についても「ひとつひとつ、アニメーターが全て描いている」とのこと。若杉氏も「ほかのプロジェクトや映画では経験したことがなく、工夫が必要で大変でしたが、楽しかったポイントでもあります」と語っている。
「顔のシワなども全てアニメーターが手付けで表現しています。笑った時にシワが大きくなったり、シワの数が増えたり。アニメーションの一コマ一コマで、コミックのような表現を作るには欠かせない部分だったと思います。喋る時には口の動きによってシワも動いたり、笑った時には目尻のシワが生まれたり、かなり緻密な作業でした。」
ところで気になるのは、若杉氏自身が製作上で特にこだわったポイントだ。すると若杉氏は「どんなショットも映画のものだと思うので、ある意味で自分の手垢は残したくないんです(笑)」と前置きしつつ、自身の信条とこだわりを少しだけ明かしてくれた。
「アニメーションでは一番大事なのは、アニメーターの演出で、お客さんに対して“何を伝えられたのか”、そして“どれだけわかりやすく伝えられたのか”だと思っているんです。そういう意味では、グウェンのアニメーションや動きでは“かっこよさとしなやかさを備えた女の子”といった部分をきちんと考えましたね。」

待望のブルーレイ&DVDリリースにあたっては、『スパイダーマン:スパイダーバース』の作り込まれた細部までをじっくりと楽しむことができる。製作総指揮のフィル&クリスもアニメーションの完成度や作り込みには自信を示しており、早くから“コマ送り推奨”を宣言していたほど。若杉氏も「モーションブラーや細かいシワの動きまで、一つ一つをぜひ見て欲しいと思います」と述べている。
ちなみにブルーレイの注目ポイントといえば特典映像だが、本作にも未公開シーンやメイキング映像、解説などが多数収録されている。若杉氏いわく、「削除されたシーンも収録されているみたいなので、そのあたりも見てもらえたらうれしいです。僕の関わったところでも、本編ではカットされたショットもあるので(笑)」。映画のオモテもウラも、細かいところまでじっくりと楽しんで!
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』ブルーレイ&DVDは、2019年8月7日(水)発売・レンタル開始。6月26日(水)よりデジタル先行配信。
■プレミアム・エディション【初回生産限定】 9,200円+税
■ブルーレイ&DVDセット【初回生産限定】 4,743円+税
■4K ULTRA HD&ブルーレイセット【初回生産限定】 6,800円+税
■IN 3D【初回生産限定】 5,695円+税
公式ホームページ:http://www.spider-verse.jp/site/
▼『スパイダーマン:スパイダーバース』の記事
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