スティーブン・スピルバーグ、Netflixのアカデミー賞締め出しを提案か ─ 業界から批判、Netflixも声明を発表

巨匠映画監督スティーブン・スピルバーグが、Netflixなど配信プラットフォームによる映画をアカデミー賞から締め出そうとしている……。この報道は米国をはじめ、世界中の映画関係者に衝撃を与えた。現在、SNSなどではスピルバーグに対する批判が相次いでいる。
スピルバーグ、ストリーミングへの対策講じる?
きっかけとなったのは、2019年2月28日(米国時間)に米IndieWireが発表したひとつの記事だった。Netflix映画『ROMA/ローマ』(2018)が第91回アカデミー賞で監督賞(アルフォンソ・キュアロン)・外国語映画賞・撮影賞(アルフォンソ・キュアロン)の3部門に輝いたことを受けて、スピルバーグは、映画芸術科学アカデミーの理事会でノミネート条件の変更を支持、提案する構えだというのだ。現在、スピルバーグはアカデミーの監督部門で理事を務めている。
このたび、スピルバーグの製作会社であるアンブリン・エンターテインメントの広報担当者は以下の声明を発表した。
「スティーブンはストリーミング配信と劇場公開の違いを強く感じています。提案の際、ほかの方が(スティーブンの取り組みに)加わってくだされば、彼は喜ぶことでしょう。どんなことが起こるのか、彼は様子を見ることになります。」
声明を言葉通りに読むかぎり、スピルバーグがアカデミーの理事会にてストリーミング配信と劇場公開に関する提案を行うこと、そこに映画関係者の参加を求めていることは明白だ。アカデミー側も「賞のルールについては各部門とのあいだで議論されるものであり、(2019年)4月の会議で議題に挙がる可能性は高い」としている。
これまでにもスピルバーグは、ストリーミング作品について「テレビのフォーマットに作品を委ねたら、それはテレビ映画です。エミー賞には値しますが、オスカーにはふさわしくない」、「形だけの資格を得た映画がアカデミー賞のノミネートに適しているとは思いません」との批判を展開してきた。同時に劇場体験の尊さを訴えてきた監督だったが、『ROMA/ローマ』の結果を受けて、とうとう行動に出るということだろうか。しかしスピルバーグほどの巨匠監督が「アカデミー賞からの配信作品締め出し」を提案するとしたら、それはもはや“圧力”としか形容しようがないではないか……。
SNSで批判相次ぐ
今回の報道を受けて、SNSではスピルバーグへの批判が相次いでいる。『グローリー/明日への行進』(2014)のエイヴァ・デュヴァーネイ監督は、映画芸術科学アカデミーに宛てて、「理事会には部門の一般会員は参加できません。そういったフィルムメーカーが同席できること、私のように(スピルバーグとは)違うことを感じている監督からの声明が読み上げられることを願います」との声明を発表した。
Dear @TheAcademy, This is a Board of Governors meeting. And regular branch members can’t be there. But I hope if this is true, that you’ll have filmmakers in the room or read statements from directors like me who feel differently. Thanks, Ava DuVernay. https://t.co/DFBLVWhiJj
— Ava DuVernay (@ava) 2019年3月1日
『死霊のはらわた』などで知られる俳優ブルース・キャンベルは挑発的だ。「ごめん、スピルバーグさん。『ROMA/ローマ』はテレビ映画じゃない、どこで観てもすばらしい作品だ。プラットフォームは(作品の出来とは)無関係になった。Netflixで映画を作ってください」。
Steven Spielberg is gunning to make sure Netflix never has another Oscars contender like Roma.
Sorry, Mr. Spielberg, Roma ain’t no TV movie – it’s as impressive as anything out there. Platforms have become irrelevant. Make a movie with Netflix. https://t.co/0gvhlYhJs7
— Bruce Campbell (@GroovyBruce) 2019年3月2日
この動きに最も敏感なのは、業界で活動する批評家やジャーナリストたちだ。アランナ・ベネット氏は「私の疑問は、なぜスピルバーグが他の何かじゃなくNetflixと争っているのかってこと。これが2019年にハリウッドでやるあなたの戦いなの?」とコメント。映画評論家のレベッカ・セオドア=バション氏は「これは真剣な疑問と懸念なのですが、スピルバーグが有色人種の脚本家や監督を導いたり、あるいは仕事の機会を与えたことがありましたか?」と記した。
なかにはもっと辛辣に、スピルバーグを“時代についていけない老人”として揶揄する声もある。多くを取り上げることは避けるが、たとえばライターのスコット・ワインバーグ氏は「ああ、みんなのヒーローが駄々っ子になる時が来た」とだけ書いているのだ。
Netflixの声明
あきらかに今回の報道を受けてのものであろう、NetflixはTwitterを通して声明文を発表した。
We love cinema. Here are some things we also love:
-Access for people who can’t always afford, or live in towns without, theaters
-Letting everyone, everywhere enjoy releases at the same time
-Giving filmmakers more ways to share artThese things are not mutually exclusive.
— Netflix Film (@NetflixFilm) 2019年3月4日
「私たちは映画を愛しています。そして、これらのことも同時に愛しています。
・つねに金銭や時間の余裕があるわけではない、あるいは映画館のない町に暮らしている人々にも作品が届くこと。
・誰もが、どこであっても、同時に作品を楽しめること。
・アートを人々に伝えるための、さらなる選択肢をフィルムメーカーに提供すること。
これらは互いに矛盾するものではありません。」
『ROMA/ローマ』を手がけたアルフォンソ・キュアロン監督は、ゴールデングローブ賞の授賞式後、メディアに対して「プラットフォームと映画館についての議論が終わることを願います。彼らの議論こそが、映画というものを傷つけていることに気づくべきですよ」と話した。「大切なのは映画に多様性を生み出すこと」だと述べた監督は、いまどのようなことを考えているのだろうか。

実際にスピルバーグが理事会にて提案に及んだ場合、どのような結果が生じるかはわからない。SNSではスピルバーグへの批判が大きいものの、IndieWireによれば、Netflixの手法については既存の映画スタジオも不満を呈しているというのだ。たとえば、Netflixがアカデミー賞のために巨額の予算を投じてプロモーションを行ったこと、『ROMA/ローマ』の米国公開期間が3週間しかなく、興行成績が発表されなかったこと、すでに作品が全世界で24時間観られるようになっていることだ。もちろん、これらは一切アカデミー側の提示する条件に反するものではないのだが……。
Netflixは2019年にも多数の映画を発表するほか、今後はディズニーやAppleといった大手企業が相次いでストリーミングに参入、オリジナル作品を発表することになる。さらなるストリーミング時代が到来することが明白な現状にあって、スピルバーグの主張はどのように受け止められるのか、そしてアカデミーはどのように対応するのか。もしもルールが変更されてしまえば、かつてキュアロン監督も触れていたように、映画館での上映機会を得られないフィルムメーカーが評価の機会を再び失うことになってしまうことを忘れてはならない。