スティーブン・スピルバーグ監督、映画館業界の復活に強い意思「観客は戻ってくる」

コロナ禍により未曾有の危機に直面している映画業界では、作品の発信方法に変化が訪れ、ストリーミングを中心とした新たな選択肢が消費者(=視聴者)の間で浸透しつつある。映画産業を息絶えさせないためにも、コロナ禍でのこうした前進は必要不可欠なことである一方で、今もなお営業停止、あるいは様々な制限が設けられた映画館業界は、為す術無しの苦境に追い込まれている。
こうした中、数々の映画体験を世界中に与えてきた1人の巨匠が、映画館業界の復活を願う意思を表明した。『ジョーズ』(1975)『E.T.』(1982)『シンドラーのリスト』(1993)…と、代表作を数え始めたらきりがないほどの名作を世に送り出してきたスティーブン・スピルバーグ監督だ。映画館に足を運べない今だからこそ英Empire Magazineが設けた特集、「The Greatest Cinema Moments Ever(史上最高の映画体験)」に寄稿したスピルバーグ監督は、映画館特有の鑑賞体験を強調しながら、持論を展開している。
「私たちの健康に危機が及んでいる現在、世界的なパンデミックの影響で映画館が閉鎖され、座席数が劇的に制限されている状況においても、安全が帰ってきた暁には観客が映画を観に戻ってくることを、私は今でも願っています。これまで私はいついかなる時も、映画を観に行く(movie-going)コミュニティに身を捧げてきました─ “映画を観に行く”というのは、家から映画館に足を運ぶこと。“コミュニティ”というのは、座席に並んで座る時に芽生える他の観客との友情のような意味です。
映画館では、人生の中で大切な人たちと映画を観る一方で、知らない人たちとも観ます。これこそ、私たちが映画や演劇、コンサート、コメディを観に行く時に経験する魔法なのです。周りに座っている人とは知り合いではありません。けれど、笑ったり泣いたり、喜んだりじっくり考えたりして、それから明かりが点いて席を立つ時、現実の世界へ共に向かう人々はもはや完全に知らない人ではないのです。心と精神が繋がったような、何であれ数時間の力強い経験を共有したような、1つのコミュニティとなるのです。
映画館で過ごすこの短い時間で、私たちを分ける多くのこと─人種、階級、信念、ジェンダー、政治思想─が無かったことになるわけではありません。しかし、見知らぬ集団が笑い、泣き、共に座席から一斉に飛び出た後では、私たちの国や世界が、より分断されず、溝のないように感じられると思うのです。芸術は、私たちに問います。個と世界のことを同時に認識すべきであるということを。それがゆえに、私たちを1つに繋ぎうる全てのものにおいて、芸術を共に体験すること以上の力強いものは無いのです。」
スピルバーグ監督が映画館業界の再起を強く願う一方で、コロナ禍に大きな危惧を示すハリウッドのフィルムメーカーたちの存在もある。2020年10月、マーティン・スコセッシ、クリント・イーストウッドといった巨匠を含む計80名以上の映画監督が「このままでは映画館は生き残れない」と主張し、アメリカ連邦議会に対して映画館への支援を求める書簡を提出しているのだ。この書簡には、コロナ禍の影響で映画館業界が被った損失が具体的なデータと共に記されており、危機に瀕する業界救済のための強いメッセージが込められている。
映画館存続のために具体的な財政支援を求める同書簡に対して、スピルバーグ監督の訴えは、映画館存続を支える存在である観客に向けたものである。大スクリーンを通して観客を別世界に誘ってきたスピルバーグ監督ならではの意思表示の方法であることは間違いない。果たして、1人の巨匠が切に願うかつての映画体験が再び帰ってくる日は来るのだろうか…。
Source: Empire Magazine