『スタンド・バイ・ミー』パイ食い競争シーン、CG無しで行われた試行錯誤の撮影

映画『スタンド・バイ・ミー』では、4人の冒険からは少し逸脱した、ある強烈なシークエンスが登場する。ウィル・ウィートン演じるゴーディが、クリス、テディ、バーンの3人に語った巨漢デビー・ホーガンの物語だ。「ブタケツ(lard-ass)」呼ばわりされた少年ホーガンが考えついたパイ食い競争での復讐劇は、カオスな現場に圧倒されながらも、完全勝利を収めたホーガンに感情移入してしまう爽快なシーンでもあった。
野宿先で語られたこの物語たるや、ブルーベリー・パイのゲロにまみれた事件現場はひどい有り様。参加者から隣の参加者へと嘔吐は伝染していき、更には異臭により観客にも吐き気を催させた。ありえない量の嘔吐パイにまみれたこのシーンは、どのようにして撮影されたのか。公開から30年が経った2016年、ロブ・ライナー監督とホーガンを演じたアンディ・リンドバーグが、米Entertainment Weeklyのインタビューで当時を振り返っている。
「すごく重労働でしたけど、楽しかったです」。こう語るライナー監督をはじめとする製作陣は、パイ食い競争シーンの撮影のためにエキストラを雇い、現地オレゴン州ブラウンズビルのベーカリーでチーズ入りブルーベリー・パイを大量に注文したという。また、現場では多くのカメラがセッティングされた。その理由について、「たくさん掃除するのは嫌だったので」と語るライナー監督。できるだけ少ないテイクで終わらせるつもりだったのだろう。大掛かりな下準備が整ったところで、さっそく行われた撮影は試行錯誤の連続だった。リンドバーグは、次のように撮影時を思い起こす。
「嘔吐のために最初に試されたのは、高圧洗浄機でした。タンクを(パイで)満タンにして発射させてみたんです。そしたら、1圧力あたり500ポンド(約226kg)のパイが左隣にいた男の人に飛んでいって。うまくいきませんでしたね。勢いが良すぎたんです。」
ものすごい量の嘔吐パイを浴びた男性には同情の念しかないが、リンドバーグいわく、実験が重ねられた末に1つの解決策が発見されたという。「ボンベに付けられた巨大なピストンを4人か5人がかりで押し下げることで、5ガロン(約18kg)のパイを発射させました。それがシャツの襟を通って顔の横にテープで固定されたチューブから出たんです」。ライナー監督は、このときの撮影について「よく見れば、かなり安っぽいですよね。だって発射するためのチューブを隠さなければいけなかったんですから」と改めて振り返っている。
いかにも原始的なこの方法によって、パイまみれになった惨劇が作り出されたわけだが、撮影終了後の余波も悲惨だった。リンドバーグは「泊まっていたホテルの床をブルーベリーで汚してしまったほど、ブルーベリー・パイまみれだったと思います」と語っている。さらに記憶をたどるリンドバーグは、その場にいたエキストラとの滑稽なエピソードを披露してもいる。
「エキストラの方たちと話していたとき、彼らがベタベタのベトベトになっている僕のことをからかっていたのを覚えています。けど、次の日には状況が逆転したんですよ。彼らはお互いに吐き合わなければならなくなって。映画に映る僕の満足げな表情は、ある意味嘘ではなかったわけです。」
なお、嘔吐しまくるホーガンを演出するにあたり、ライナー監督はリンドバーグにとある指示を与えていたのだそう。「お腹の音を録るために必死で働きました」と語るライナー監督は、幼少期にテレビで観たコメディアン・俳優のジャッキー・グリーソンをロールモデルにしたという。「彼が演じていたキャラクターの1人、レジー・ヴァン・グリーソン3世のことです。彼は大金持ちなんですけど、酒を飲んでは人に失礼なことをしていて。変なきしみ音や、ボーンという音をお腹から出していました」。リンドバーグもライナー監督から指示を受けた時のことを鮮明に覚えていたようだ。「僕が吐く前に立ってよろめいた時、ライナー監督が“同じことをしているジャッキー・グリーソンを思い浮かべて”と言っていました」。
これほどまでに労力がかけられ、結果的に強烈な印象を残したパイ食い競争シーンだが、ライナー監督はこの一連のシーンを物語に組み込むか否かを巡って、製作陣と揉めていたという。その理由は、作家として成功することになるゴーディへの気遣いにあった。「彼はゲロについての物語を本当に話していたでしょうか。バカげた物語ですから。なのでいろいろと迷ったんですけど、最終的に和解して、ゴーサインを出したんです」。
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Source: Entertainment Weekly