「アンダン ~時を超える者~」タイムリープ連発で謎解き、大人向けミステリアニメにハマれ ─ おうち時間に観たいシリーズ作品を1日1本紹介

新型コロナウイルスの感染拡大防止のための「緊急事態宣言」も、どうやら長引くことになりそうだ。いつもなら話題の大作映画がやってくるゴールデン・ウィークも、今年はずっとおうちで過ごすことになりそう。
そんな時だからこそ、たっぷり時間を使って「シリーズもの」に手を出してみてはいかがだろう。海外ドラマやリアリティ番組、ドキュメンタリー・シリーズなど、THE RIVER編集部メンバーいちおしのタイトルを8日連続で1日1作ご紹介。話題作から、ちょっぴりマイナーなものまで、イチオシ作をぜひお楽しみいただきたい。
7日目は稲垣貴俊より、「アンダン ~時を超える者~」をご紹介。
「アンダン ~時を超える者~」
たまにはじっくりと、大人向けのアニメーション作品を。Amazon Original「アンダン ~時を超える者~」(2019-)は、ルーツにも幼少期にも事情を抱えた女性が、交通事故をきっかけに、死んだ父親と出会い、タイトル通りに“時を超えて”その謎を解明していく物語。公式には「コメディ」とされているが、SF・ファンタジー・ミステリーの融合と表現するのが正確だろう。
主人公のアルマは、メキシコ系の母親と白人の父親の間に生まれ、保育施設で働く女性。退屈な日常を過ごしながら、その退屈さには抵抗感をおぼえている。妹のベッカは恋人との結婚を控えるが、それさえどうも素直に喜べない。父方の祖母が統合失調症を患っていたこと、幼少期に父が事故死したことから、自分たちには“人を幸せにできない血”が流れていると考えているのだ。インド系の恋人、サムとの関係にも不安が付きまとう。
そんなある日、アルマは車の運転中に交通事故に遭った。目覚めたアルマの前には、死んだはずの父親の姿が。しかも、目の前に見える景色はどうも現実的ではない。アルマは父に導かれるがままに時間と空間、現実と非現実を行き来し、ついには「自分を殺した犯人を見つけてほしい」「過去を変えてほしい」と頼まれるのだった……。
ミステリーという作品の性質上、ストーリーをこれ以上書き記すのは避けることにしよう。しかし、ここにあるキーワードがどこかで“刺さった”方ならば、きっと「アンダン」は心に残る一作になるはず。本作はタイムリープで過去の事件に秘められた謎を解きながら、アイデンティティやトラウマによって生きづらさを抱えた人が、いかにして周囲と関わり、自らの問題を受け入れるのかというテーマをはらんでいるのだ。科学と非科学、マジョリティとマイノリティの間にあるボーダーラインという要素もある。
そんな複雑なストーリーを、「アンダン」は各話22~24分、全8話というコンパクトな構成で描く。濃密な心理描写、細部まで張りめぐらされた伏線が脚本・演出の両面で高速展開するので、“ながら観”はオススメできない。じっと観ていたにせよ、後半は「これが繋がってくるの!?」と驚かされるはず。また特筆すべきは──予告編を観てもわかるように──実写映像からアニメーションを制作する「ロトスコープ」という技法だ。日本の観客にも「惡の華」(2013)や『花とアリス殺人事件』(2015)などで知られているが、本作の場合、現実と非現実の境界を溶かす作劇にしっかりフィット。どことなく不気味な人間の表現も、底の知れないテーマや人物描写とあいまって効果的だ(メイキング映像もおもしろい)。
脚本・製作総指揮は、Netflixアニメ「ボージャック・ホースマン」(2014-2020)を手がけたラファエル・ボブ=ワクスバーグ&ケイト・パーディ。同作のユーモアと心理描写、そして痛々しさは健在だ。主人公アルマ役は『アリータ: バトル・エンジェル』(2019)でアリータを演じたローサ・サラザール。恋人役は『パティ・ケイク$』(2017)のジッタルタ・ダナンジェイ、上司役は『ブラインドスポッティング』(2018)のダヴィード・ディグスが演じた。父親役は「ベター・コール・ソウル」(2015-)のボブ・オデンカークで、プロデューサーも兼任している。
ちなみに本作「アンダン」は高い評価を受け、すでにシーズン2の製作が決定済み。もっとも今回の物語はひとまず全8話で完結しているといえるので、そのあたりはご安心を。
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