【インタビュー】『Summer of 85』で輝く主演2人の自然体な姿勢 ─ 10代の「孵化」描いたひと夏の青春

1980年代、フランス。海辺の街に暮らす少年2人の、“淡くほろ苦い”とは一括りには言い表せない感情入り交じったひと夏の青春が現代に蘇る──
世界最大映画祭の常連として数々の名作を世に放ってきたフランス映画界の巨匠フランソワ・オゾン監督の最新作、『Summer of 85』がついに日本で封切りを迎えた。オゾン監督が17歳の時に出会い、深く影響を受けたエイダン・チェンバーズの小説『おれの墓で踊れ』(徳間書店)を基に、進路に悩む16歳のアレックスと自然体で飄々(ひょうひょう)とした18歳のダヴィド、2人の少年の出会いから突然の別れ、そしてその後までを描いた作品だ。
THE RIVERは、そんな本作でダブル主演を務めたアレックス役のフェリックス・ルフェーヴルとダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザンに単独インタビューを実施。長年温めてきた企画とあり、オゾン監督は「適役が見つからなければ映画化自体を取りやめようとする」ほど、主人公2人の起用に並々ならぬ覚悟を持っていた。そのオーディションで、オゾン監督の直感に入り込み、運命的に抜擢されたのがフェリックスとバンジャマンなのだ。
ダヴィド役のバンジャマンは筆者に「ヘーイ!」と陽気に挨拶。通訳を介したインタビューにもかかわらず、フェリックスは知っている日本語を駆使してコミュニケーションを取るなど、取材は終始ラフな雰囲気で進行していった。オゾン監督が「最初のスクリーンテストから、フェリックスとバンジャマンの間には通じるものが確かにありました。活き活きとしていたんです。よほど相性がよかったんでしょうね」と語るその通りに、取材中は互いに笑いあったり、からかいあったり、筆者の質問をよそに話す姿も印象的だった茶目っ気たっぷりなふたり。フランス映画界を担う期待の若手俳優としても注目を浴びるフェリックスとバンジャマンの人間性も垣間見られる記事となっているはずだ。
直感で決まったオーディション、当時の心境は「ディスコ状態」?
── ボンジュール!
バンジャマン:コモン サヴァ?(フランス語で“元気?”の意)
── めちゃくちゃ元気ですよ!
バンジャマン:フランス語話せますか?
── いや、今回のために挨拶程度のフランス語は予習したんですけど、ほかは全くで……。おふたりは英語を話しますか?それか日本語とか。
フェリックス:日本語ね。日本語。アリガトウゴザイマシテ!
── お上手ですね!
バンジャマン:(笑)
フェリックス:(日本語で)エ、ナニ?ナニ?(笑)
バンジャマン:フェリックスが日本語しゃべってるよ(笑)
── おふたりともほんとに仲が良いんですね!それではさっそくですが、素敵な作品をありがとうございます。フランスののどかな海辺の映像美や、80年代のヒット曲など、エモーショナルな気分になる要素が詰まった映画でありつつ、ほんの少し前だったようにも感じる10代の複雑な人間関係や心の揺れ動きにはすごく共感を覚えました。
(バンジャマン、なぜか一時退席)
フェリックス:「ありがとう」と言うべき相手はオゾン監督ですね。あとは原作者のエイダン・チェンバーズに言ってください!
── オーディションでは、オゾン監督の心を鷲掴みにしたとお聞きしました。抜擢されたときの心境はどうでしたか?
(バンジャマン、着席)
フェリックス:ほんとにすごく嬉しくて、飛び跳ねていろんな友達に電話したりメールを送ったりしまくりました。3時間くらい心臓の鼓動が止まりませんでした。
バンジャマン:まるで18時半にディスコに行く気分でしたよ!(両手を頭の上にして身体を揺らしながらノリノリで)「フォーーーーッ!」って。
── 友達からはどんな反応があったんですか?
バンジャマン:彼らが知らせを聞いた時も、ディスコ状態でしたよ。(今度は窓の外に向かって、身体を横ノリ)
フェリックス:映画のことを知らない友達は「ふーん」って感じでしたけど、俳優仲間は「嘘でしょ」ってみんな衝撃を受けてました。“若手のお前が、あのフランソワ・オゾンと?”って感じで。けっこうみんな驚きを隠せないようでした。だからある意味、僕もディスコでしたね。(バンジャマン同様、ノリノリ)

80年代の若者、役作りの鍵は「遊んでいる時」と「両親」
── 本作では、ダヴィドとアレックスの2人に焦点が当てられていて、見どころはやはり2人の人間関係の変化にあると思います。役づくりに関して、撮影が始まる前から2人で一緒に話したり準備したりしたことはありましたか?
フェリックス:バンジャマンとはけっこう頻繁に会って、役作りについての話もしました。ただ、役作りとかシナリオとかに関係なく、僕たちが実生活で作りあげていた関係性を作品に活かすのが良いアイデアだと思ったので、仕事の話をしないで会っていただけの時もありましたね。
バンジャマンはバイクに乗るんですけど、僕は乗らないので、乗り方を教えてもらったりして。ダヴィドに対するアレックスの“すごいな”という気持ちは、そういった日常から僕自身も追体験して、それを撮影の時に活かせればいいなと思っていました。遊んでいる時にもちょっとアレックスっぽく振る舞ってみたりもしましたね。実生活から役を演じてみる、というようなことをしてたんです。

── 私もおふたりと同じ90年代生まれなのですが、80年代というと親の話や映画を通してでしか知れないことかと思います。80年代のフランスの若者を演じるにあたって、どんなリサーチをしましたか?また、オゾン監督からは具体的な指示などはあったのでしょうか。
フェリックス:幸い、僕の母親が80年代を謳歌した世代だったので、当時のいろんなことを教えてくれました。車に乗っている時に僕が80年代のヒット曲を流すと、母親はほとんどの曲を知っていて、「あの時はこれだけ先端をいっていた曲だったんだよ」とか、「あの時はこんな踊り方をしてたなぁ」とか、両親からいろいろと教わったっていうのが(役作りの上で)大きかったです。
オゾン監督からは、80年代を代表するような映画を観るように言われました。ただ、あの80年代のフランスの雰囲気を出すのに一番貢献したのは、衣装と美術だと思います。セリフなんかも80年代っぽく書かれていましたし、だからこそあのような雰囲気が出せたんだと思っています。僕たちには当時の若者のように話せというような指示は無かったので、やっぱり一番貢献したのは、衣装と美術、脚本のセリフだと思います。
── ファッションや音楽について、おふたりの好みは?
バンジャマン:僕自身、音楽は大好きで、人生の一部ですね。ただ、同じ音楽をずっと聴き続けるというわけではなくて、自分の人生のその時々に聴きたい音楽っていうのがあるんです。シンセサイザーの昔っぽい音楽なんかは、セーヌ川沿いで1時間くらい歩きながら聴くのは素敵でオススメです。
「ティーンエイジャー」と「孵化」の物語

──主人公のふたりについて話を戻しますが、ダヴィドは自分の思いを内に秘めるタイプな一方で、アレックスはどちらかと言えば感情をむき出しにしたような性格だったと思います。おふたりは、それぞれ役柄と似ている点や違う点はございますか?
バンジャマン:フェリックスは、ニーチェ※を読むんですよ。反対にアレックスはニーチェを読まないので、そこが彼とフェリックスの違いだと思います。ニーチェが説いていることって、“本当に深い思考を持っている人は口には出さない”ということなんだと思うんですけど、そういう意味では、アレックスは深い人間ではないということになりますね。それを除けばフェリックスと似ているところはあったと思います。
ダヴィドと僕の共通点としては、ふたりともか弱いものを内に隠しているけれど、それを誰にも言わないということでしょうか。なのでいつもニコニコしていて、悲しみとか苦しみは表に出さないんです。そういう点は似ていると思いますね。
フェリックス:僕とアレックスの違う点……僕は思ったことをすぐに口に出すタイプではないことですかね。昔は自分にもナイーブなところがあったのかもしれないけど、すぐに口に出してしまうほどのナイーブさは僕の中には残っていなくて、慎み深さのようなものが増したんだと思います。
アレックスの場合は、自分が思っていることを包み隠さず何でも言ってしまうだけに、劇中でもダヴィドに対して熱っぽい話し方をするんです。でも、人間にとっては自分をさらけ出すことのほうがキツくて、本当なら自分の考えとかを隠して生きていくほうが容易いことなんですけど、彼(アレックス)はまだ若いから自分を傷つけてしまうかもしれなくても感情をむき出しにしていくんだと思います。
※1844-1900。ドイツ出身の哲学者。『ツァラトゥストラはこう語った』『神は死んだ』などの著作で有名。
── 最後の質問になります。ダヴィドとアレックスの物語を描いた本作は、観客に様々な解釈を持たせると思います。ですが、あえて本作を一言で表すとしたらどのような言葉が思い浮かびますか?
バンジャマン:僕はティーンエイジャーですね。
フェリックス:フランス語でéclosionという孵化を意味する言葉ですね。

これは余談になるが、インタビューの途中、バンジャマンのスマホに着信が入ったかと思うと、発信主はまさかのフランソワ・オゾン監督だった。他媒体を含めた日本向けのプロモーションでオゾン監督が緊急参戦したのはTHE RIVERとの取材だけだったそう。なかなか無い貴重な機会に立ち会うことができた。
バンジャマンがZoom画面に向けて見せてくれたスマホの中のオゾン監督は終始ニコニコで、本人いわくバンジャマンとフェリックスの仕事っぷりを抜きうちで確認しに電話したのだとか。オゾン監督が去ったあと、バンジャマンは「普段からよく3人で連絡を取り合うんです。オゾン監督は存在感がすごくある方で、撮影やプロモーションの時でも常に存在感を出しているんです」と尊敬の言葉を語っていた。
また、最後の質問でバンジャマンとフェリックスは本作をそれぞれ「ティーンエイジャー」と「孵化」と言い表していたが、ちょうど時間切れとなってしまい理由までは尋ねることができなかった。本編を観て、ふたりがチョイスした言葉の意味に思考を巡らしてみてはいかがだろうか。
映画『Summer of 85』は新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開中。