【ネタバレ】『TENET テネット』ブルックスブラザーズのスーツ、ブルックスブラザーズじゃなかった

クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』には、やけに毒の効いたユーモアが登場する。主人公の“名もなき男”がミッションのために着ているブルックス・ブラザーズのスーツが、劇中で思わぬ言われようをするのだ。
英Esquireにて、衣裳デザイナーのジェフリー・カーランド氏は、ジョン・デイビッド・ワシントン演じる“名もなき男”の衣裳について解説している。なんと、彼が着ているブルックス・ブラザーズのスーツはブルックス・ブラザーズのものではなかったというのだ。
この記事には、映画『TENET テネット』のネタバレが含まれています。

「億万長者を名乗るんなら、ブルックス・ブラザーズじゃダメだ」。マイケル・ケイン演じるクロスビー卿の辛辣な指摘に、主人公は「予算の問題だと思う」と応じる。「仕立て屋を教えようか?」とクロスビー卿が言えば、主人公は「なんとかする」。高級レストランで繰り広げられる会話には、単独脚本作品にユーモアをあまり取り入れないノーランが、あえて洒脱な笑いを織り込んだ。『バットマン ビギンズ』(2004)以来の常連者である、ケインへのラブレターのようなセリフだと言えそうだ。
とはいえ、『TENET テネット』にブルックス・ブラザーズは関わっていないようで、この場面で“名もなき男”が着ているスーツも、実際にはブルックス・ブラザーズのものではない。カーランド氏いわく「スーツはすべて作っていて、既製品はひとつもありません。“ブルックス・ブラザーズのスーツ”でさえ特注品です」。その理由は、作品の衣裳に一貫性を持たせるためだったという。
「あのスーツはあまり質の良くない、感心しないものにする必要がありましたが、そういうものを作れることも分かっていました。一方、ジョン・デイビッドを(ドナルド・)トランプのように見せてもいけない。マイケル(・ケイン)にはネイビーの、ミッドナイトブルーのスーツを選び、黄色のネクタイとハンカチを使いました。上品で思慮深さの出る装いです。それに対してジョン・デイビッドは、暖かいモグラ色のプレイド(格子柄)に、けして特別ではないレップタイにしました。」

本作に登場する“スーツの男たち”、主人公とニール(ロバート・パティンソン)、セイター(ケネス・ブラナー)の衣裳は、それぞれ異なる職人が仕立てており、ビジュアル面でも個性が際立つようになっている。“名もなき男”の場合、ポイントは「ヨーロッパ風で、体型にぴったり合っている」こと。“名もなき男”の行動で物語が進んでいくため、主人公固有の物語を衣裳で示すことにも注力されたという。
たとえば、クロスビーのダメ出しを受けた主人公は、おそらくスーツを新たに仕立てたのだろう、次のシーンではシルバーのスーツを身にまとってキャット(エリザベス・デビッキ)と対面する。カーランド氏いわく、このスーツは「劇中で最もシャープ」な仕上がりで、ジャケット・ベスト・スラックスがシャークスキン生地で揃えられ、身長もできるだけ高く見えるデザイン。「マイケルのセリフのあと、スーツのレベルが急上昇する」というギャップの演出が大切だったそうだ。
ちなみにカーランド氏いわく、『TENET テネット』で最も気に入っているのは「あくまでもファッションとしての観点ですが、ジョン・デイビッドがセイターとのディナーで着ているワインレッドのスーツ」。イタリア風の美術とのバランス、ジョン・デイビッドの着こなしが見事に成功したことにとても満足しているという。
映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国公開中。
Source: Esquire