『ザ・クリエイター/創造者』ギャレス・エドワーズ監督来日単独取材 ─ 「映画の半分は、観客に委ねたい」

──監督のデビュー作『モンスターズ/地球外生命体』(2010)でも、さまざまな言語が飛び交っていました。あなたがどうして異国の言語や文化を積極的に取り扱うようになったのか、興味深いです。12歳の時に、家族旅行で初めてアジアを訪れたそうですね。異国の地で門外漢になる感覚や、外国というものについて、その頃に関心が湧いていたのでしょうか。
僕の出身のイギリスでは、ホリデーシーズンになるとヨーロッパや地中海、スペインやイタリア、ギリシャに旅行するのが一般的なんです。だから外国語には慣れていたわけですが、言語が英語と似ているので、外国語でありながらも何となく理解できるんですね。
でも、12歳の時に初めて香港やタイを訪れた時に、全くわからない言語というものに出会った。何一つ理解できません。看板が読めないので、トイレがどこにあるのかもわからない。まるで異世界に来たような、それこそ別の惑星にやって来たような感覚でした。SF好きの子どもにとっては、たまらない感覚です。
やはり『スター・ウォーズ』というのは、別の言語が字幕付きで登場する好例です。あれはリアルに感じますよね。かつてジョージ・ルーカスがよく言っていたことがあります。彼が日本映画を観る時、日本文化に通じていないので、わからないこと、理解できないことがたくさんある。でも、わからなくても、わからないなりに楽しいと。それが真の未来像だと僕は思います。『ザ・クリエイター/創造者』の舞台は2070年ですが、もしもそんな遠い未来に行って、映画を撮って、現在に戻ってきて編集したとしたら、そこに映っているのは理解できないものだらけでしょう。
つまり大事なのは、乗り物も建物も、我々にとって理解不能な見た目をしているということです。プロデューサーにも「これは何なの?」と聞かれることがありましたが、「僕にもわかりません」と。もしも僕が未来に行って映画を撮影していたとしたら、「あれは何だ」といちいち聞いている時間はありませんからね。理解できない言語と同じことです。そういうところにリアリズムが生まれるのだと思います。
それに、「あの船はどういうものなのか」というのは、観客が自由に考えればいいと思う。映画の半分は、観客に委ねるのが良いと考えています。

──理解できない言語が登場するというのは、確かに『スター・ウォーズ』的ですね。『新たなる希望』のカンティーナで、ハン・ソロとグリードがお互いに違う言葉で話していたシーンを思い出します。
実はね、日本版ではどうかわかりませんが、『ザ・クリエイター/創造者』のUS版ではそのシーンのVHS版での字幕フォントをコピーして再現したんですよ。僕にとっての完璧な字幕フォントでしたから。精確にコピーして、少しだけアレンジして、独自のフォントにしました。そんなところでも『スター・ウォーズ』らしさが感じられるかと(笑)。
──名作SF映画について、たとえば現在でも我々は、30年前の映画『ターミネーター2』について語ります。「あの映画に影響を受けた」とか、「この映画には『ターミネーター2』の要素がある」という風にです。そこで想像して欲しいのですが、もしも30年後、ある若手フィルムメーカーが、「小さい頃に『ザ・クリエイター/創造者』という映画を観て憧れ、これに影響されて僕は映画作りを志した」と言っていたら?
……それは全てのフィルムメーカーにとって最高の栄誉ですね!自分のキャリアで何を成し遂げたいかを考えた時、こういう結論に至ったことがあります。ある日、映画館で若手監督の作品を鑑賞して、それが自分では到底作れないような傑作だったとします。もしその映画が、自分の作った映画に影響されていたと知ったら……。
それが僕にとっての最高の出来事になるでしょう。次世代にバトンを渡すというのは、どんな興行収入成績や、どんな映画賞よりも嬉しいです。
だから、将来あなたの言ったようなことが起こったら、自分とハイタッチして、引退します(笑)。まぁ、それを期待しているわけではないですが、この映画が数年後にどう観られるかというのが、とても重要です。
映画のリリース時には、たくさんの雑音がある。やがて10年ほど経って、雑音が落ち着いた時に、映画というのは初めて語られるものです。そこでようやく、その映画がうまくいったのかがわかるのです。

──監督は、自分が子どもの頃は名作SF映画が続々と公開されていたと話していますが、確かに最近では本作のようなオリジナルのSF映画があまり作られなくなりました。フィルムメーカーやスタジオが、昔のようにSF映画を作らなくなったのはどうしてだと思いますか?
すごくシンプルですよ。需要がはっきりした映画しか作らないからです。続編ものやシリーズものばかりが観られているから、そういうものばかりが作られているというわけです。だから、この記事を読んでくれている人に向けて言いたいのは、好きな映画があったら、映画館に観に行ってくださいということです。
それは民主主義です。今から2年後、3年後、あなたがどんな映画を観られるのかは、今購入する鑑賞券という投票にかかっているのです。だから、映画館で映画を応援していただきたいです。どうせストリーミング配信があるからと、映画館での鑑賞を見送っていたら、それは「この映画は好まれなかった」と判断されてしまいます。
だから実際の映画館に足を運ぶことが、すごく重要なのです。作品の良し悪しが判断されるのは、そこです。そうすれば、また2年後に望む映画が観られるようになる。気になる映画があったら、どうか映画館に出かけてください。大スクリーンで応援してください。

『ザ・クリエイター/創造者』は大ヒット公開中。