ハロウィンの夜につまみ食いしたい不条理な恐怖、短編ホラー映画『The Drawing』の甘い味
恐怖というものには様々な形がある。映画のジャンルにも大枠として恐怖映画、あるいはホラー映画というものがあり、同じジャンルと言えども、当然恐怖に様々な形があるように、それに従う。
昨今ではあまり恐怖映画という言葉は使わずにホラー映画という呼び方が一般的かもしれない。では、英語における「Horror」の意味を辞書で調べてみると、
- 恐ろしくてぞっとする思い、恐怖、戦慄、激しい不快感
- 恐ろしい人[もの、事件、行為]、惨事
- 恐ろしい状態
- 〜への強い反感、毛嫌い、憎悪
- ひどいもの、センスのない[趣味の悪い]もの
- ひどい憂鬱、ふさぎ込み
- ホラー映画
- 俗語としての恐ろしい幻覚[妄想](麻薬の影響によるもの)
というようにわりと様々なニュアンスが存在することがわかる。ホラーという言葉自体がホラー映画を示すほどに、やはり映画におけるホラーというジャンルが人々に与えている影響は大きいようである。
さて今回は、そんなホラー映画にジャンル分けされる、ハロウィンに向けたちょっとしたお菓子的な趣のある短編映画をご紹介したい。タイトルは『The Drawing』、監督はジェイソン・ブラウン(Jason Brown)、脚本は製作も務めているマイカ・ローランド(Micah Roland)である。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=-8sMxrcnmkw&w=560&h=315]
80年代的なシンセサイザーによる導入部分は、あのホラー映画の金字塔のひとつ『ハロウィン』を生み出したジョン・カーペンターの楽曲を彷彿とさせる。そして冒頭の町並みのシーンの構図を観る限りでも、これはやはり『ハロウィン』へのオマージュとしての要素をふんだんに散りばめたハロウィン・キャンディー的な作品を意図して作られているものなのかもしれない。
タイトルにもあるように、この作品でもっとも注目するべきは、謎の落書きの存在。ただ短編ということもあり、さらにはハロウィンに向けたおまけ的な趣が強い性もあり、恐怖としてはずいぶんライトに感じられるかもしれない。あるいはまったく物足りないと感じる方も多いかもしれない。

しかしながら、ぼく個人としては、ここに描かれている恐怖にはずいぶんと好ましものを感じる。その部分はいったいどこかということに簡単に触れると、やはり正体の分からない、意味不明なものが近付いてくる恐怖、もしくは自分の身の回りをそういったものが漂っている恐怖というのは、恐怖の種類の中でもすごく怖ろしい部類のものだと感じるからである。
そして、ちょっと余談ではあるが、この作品でもうひとつ気になるポイントは、主人公を演じているクラーク・ウルフ(Clarke Wolfe)、おそらくうら若き女性という設定なのだと思うのだが、ちょっと老けているように感じる。失礼ながら、おばさんめいている。おそらくであるが、これこそジョン・カーペンターの『ハロウィン』へのオマージュであり、あの映画において学生という設定でありながら、映画の中盤辺りまでは明らかに中年女性にしか見えないように描かれているジェイミー・リー・カーティスになぞらえた表現ではないのかと勝手ながら憶測する。

『ハロウィン』の中でなにが一番ホラーかと言えば、彼女の劇中盤までの中年女性っぷりと、物語が進むに連れてやけにキレイに若返って見えてくる部分だと、何度あの映画を観ても強く感じる。
とまあそんなわけで、この80年代のホラー映画臭を持つ『The Drawing 』、恐怖の種類という観点から捉えると、わりと好きな作品ではある。
恐怖も実に様々なのであるから。
最後に、この短編映画にはテッド・ブレイスウェル(Ted Bracewell)によってデザインされた映画ポスターも存在する。それがなかなか小気味よいので、それを見ながらのお別れとしたい。ポスターに描かれた彼女もやはり、ほら、おばさんめいているでしょ。
