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シャマラン娘監督の『ザ・ウォッチャーズ』は「スリラー好き、ホラー好きに間違いなく刺さる」 ─ ネタバレ禁止、監視系ゾワゾワ恐怖【レビュー】

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

今年一番の衝撃かもしれない?映画『ザ・ウォッチャーズ』は、あのミステリー/サスペンスの最高名手M・ナイト・シャマランの実娘にして、弱冠24歳のイシャナ・ナイト・シャマランの監督デビュー作謎解き、ホラーの緊迫感と娯楽性とが巧みにブレンドされた良作となっており、これが24歳の新人デビュー作とはとても信じられない。“シャマラニズム”を継承しつつ、独自のエッセンスも詰まった、膝打つリアリティー・ホラーに仕上がっている。

地図にない森に迷い込んだ28歳の孤独なアーティスト、ミナ(ダコタ・ファニング)は、ガラス貼りの謎の部屋に閉じ込められる。室内で出会ったのは見知らぬ3人。そこでミナは、謎の“何か”に毎晩監視されるという、得体の知れない恐怖との対峙を強いられる。一体、誰が、なんのために?果たして彼女たちは、この部屋から脱出できるのか?

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

イシャナは、父親が手がけた『オールド』(2021)『ノック 終末の訪問者』(2023)で第二班監督として補佐。自身の成長について、「ここ数年は父と仕事している。バランスがやっとわかってきた。それは難しくもあり、とても美しいことでもある」との実感を語っている。

もちろん、幼い頃からミステリー作品の英才教育を施されていることもあるだろう。本作でも、多くの点で父の作品の系譜を継いでいる。例えば、“突然ミステリーサークルが現れ、謎の存在が襲来する”『サイン』(2002)、“突然人々が突発的に自殺をする”『ハプニング』(2008)、“突然人々が急激に老いる”『オールド』といったキャッチーな“ミステリー設定”は本作にも共通する。きっとイシャナは、「まず設定で観客の心を掴め!」と聞かされたのではないだろうか。『ザ・ウォッチャーズ』は、主人公が不条理な状況に押し込まれるまで非常にテンポ良く進み、のっけからグイグイ引き込まれる。

また、『ヴィレッジ』(2004)のように、登場人物が強制的に従わなくてはならない“ルール設定”もある。本作『ザ・ウォッチャーズ』では、「“監視者”に背を向けてはいけない」「決してドアを開けてはいけない」「常に光の中にいろ」という3つのルールが決められている。観客は、これらのルールが破られたらどうなってしまうのか、どんな恐ろしいことが降りかかるのかと、不安でたまらなくなる。

不可解な現象が起こる直前に必ず“予兆”が見られるというセオリーも踏襲された。『ハプニング』では、人々が自殺を始める直前、支離滅裂な言葉を繰り返してから停止する、という予兆が描かれた。『ザ・ウォッチャーズ』では、謎の“何か”が出現する直前、カラスの大群が森を飛び、地響きが起こる。この描写によって物語の進行にメリハリが与えられており、波のように押し寄せる緊張を体感することができる。

このジャンルの映画では、ストーリーに共感性を補完しようとして登場人物にバックストーリーを持たせようとした結果、かえってテンポがもたついてしまい、ミステリーから注意が逸れてしまうこともままある。しかし『ザ・ウォッチャーズ』は、キャラクターの背景描写は程よい分量に収めつつも、きちんと謎解きにも活かされる構造に仕上げられている。

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

主人公のミナは28歳の孤独なアーティストで、どこか闇を抱えた女性。徐々に明かされるのだが、彼女は暗い過去を持っており、その折り合いの付け方が物語の推進力となる。演じるのは『アイ・アム・サム』(2001)『マイ・ボディガード』(2004)『イコライザー THE FINAL』(2023)のダコタ・ファニングだ。「ダコタがミナに、力の抜けたクールな少女の要素をもたらしてくれた。彼女がまさに最後のピースをはめてミナを完成させてくれた」と、イシャナ監督はファニングを絶賛している。

また、ガラス部屋で出会う最年長女性のマデリン、若い女性キアラと男性ダニエルもそれぞれに事情を抱えている。彼らは、時に協力し合い、時に反目し合いながら、この謎の森から脱出しようと試みる。昼間のみ探索できる森には、先人が残した番号付きの「回帰不能ポイント」なるサインがあちこちに散りばめられており、これが唯一の手がかりとなるようだ。わずかなヒントをもとに、手探りで謎を解く感覚は脱出ゲームにも通ずる

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

観客がミナと共に迷い込むのは、おとぎ話と悪夢を組み合わせたような不気味な世界。映像化にあたって、イシャナと美術監督はギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』、ロバート・エガースの『ウィッチ』、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』を参考にしたという。密室空間に閉じ込められるという設定なので、『CUBE』『SAW』といったシチュエーション・スリラーの要素も強い。

『ザ・ウォッチャーズ』では、“謎の何か”の監視が及ばない昼間は森に出ての行動が許されているので、物語やミステリーの範囲がのびのびと拡張されている。このため、「昼」と「夜」、「開放感」と「閉塞感」のコントラストがあるのが特徴で、この対極性は劇中でも“鏡”のメタファーを通じて描かれていると考察することもできる。ところで、昼間のうちにできるだけ周囲を散策し、夜間は恐怖の襲来に備えて建物に籠る……というルーティンは、人気ゲーム『マインクラフト』的でもある。

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

父の“シャマラニズム”を色濃く継承しつつ、ユニークな条件設定下での恐怖を描くエンタメ性はブラムハウス映画っぽくもあるし、得体の知れない恐ろしさと戦いながら、最後の最後まで予断を許さないハラハラ感は、スティーヴン・キング映画のようなエッセンスも感じられる。ホラー、ミステリー、スリラーといった分野の全方面にアピールできる、優れたバランスの作風だ。なお、本作の配給はワーナー・ブラザースだ。『IT/イット』や『アナベル』シリーズなど、娯楽性の高いワーナーホラーが数多くの大ヒットとなっていることは、映画ファンには周知の事実だろう。

この映画はスリラー好き、ホラー好きには間違いなく刺さると思う。そういう要素がたくさん詰まっている」と、主演のファニングも推しポイントだと語っている。「自分が怖がっているのはわかっているのだけれど、実際何に怖がっているのかはわからない、そんな心理的な側面もある。こういう映画が私は大好き。スリラーやホラーのいろいろな要素が詰め込まれていて、ちょうどいい恐怖とバイオレンスがあって、その中に繊細な部分もある」。

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

父シャマランの作品がそうであるように、『ザ・ウォッチャーズ』もネタバレ厳禁のイベント・ムービー。ひたすら監視してくる“謎の何か”のヤバすぎる正体とは?一体、なぜ監視されるのか?ガラス貼りの部屋は、誰が何のために作ったのか?この恐怖の監視生活から抜け出すことはできるのか?ひとりででも、友人や家族を誘ってでも、衝撃の真相を劇場で目撃してほしい。

ちなみに父M・ナイト・シャマランは、とくべつ娘に映画監督を志すよう助言することはなく、「彼女には彼女の思うままに進んでほしかった」との教育方針。やがてイシャナはファンタジーに傾倒した作家になり、想像力豊かなクリエイターとして成長し、その才能が本作『ザ・ウォッチャーズ』へと結びついた。

フィルムメーカーとしての審美眼が整っていることを、父親は高く評価している。例えば森でのシーンの撮影中、「彼女は森の中のちょうどいい場所、ちょうどいいアングルを見つけて、このシーンをどう伝えるかを考えていた。この葉っぱがこっちを向いていて、この枝があの方向に曲がっている……彼女にはそんなふうに物事を見る目があるんです。そういう作業が彼女をワクワクさせるし、彼女にとってとても楽しいことだということが、傍から見ていてわかるんです」。

ザ・ウォッチャーズ
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

さて、目の肥えた映画ファンの皆さんは、こう考えているかもしれない。「シャマラン映画って、自分の中で当たり外れの差が激しいんだよなぁ」と。結末に拍子抜けした経験に身に覚えがあるのだろう。

それでは『ザ・ウォッチャーズ』はどうなのかというと、緊張感を保った力強い畳みかけと、寓話的で美しいラストがある。とても神秘的だが、神秘性で有耶無耶にするのではなく、映画に一筋の円弧を繋いでいる。ハラハラドキドキの本編のみならず、この忘れ難いエンディングは、観客に充足感をもたらすことだろう。

監視される恐怖と究極の脱出ゲームの要素が織りなす禁断の“覗き見”リアリティーホラー『ザ・ウォッチャーズ』は、2024年6月21日(金)に全国ロードショー。

Supported by ワーナー・ブラザース映画

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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