【ネタバレ考察】『ソー:ラブ&サンダー』ラスト、ジェーンの◯◯◯◯について

この記事には、『ソー:ラブ&サンダー』のネタバレが含まれています。

ジェーン、最後の「決めゼリフ」は何だったのか?
マーベル・シネマティック・ユニバース『ソー:ラブ&サンダー』では、ソーのかつての恋人ジェーン・フォンダ……じゃなくって、ジェーン・フォスターが「新生マイティ・ソー」として登場。ムジョルニアの神秘によって突発的な力を得たジェーンは、いわば“新米ヒーロー”だ。これまでアカデミックな世界で生きてきたジェーンは、かつて側で見ていたソーに倣って、スーパーヒーローらしい振る舞いに憧れるようになる。彼女は本作の結末で、良い“決めゼリフ”(キャッチフレーズ)が浮かんだと言い残すが、それは一体何だったのだろう?
“健康な身体”が生み出す強靭なパワーと、目をひくアーマー、そして強力な武器。スーパーヒーローに必要な素質のほぼ全てを一挙に入手できることとなったジェーンだが、唯一自分で準備しなければならないものがあった。それは“決めゼリフ”だ。無論、これはヒーローにとって必須のものではないが、彼女がそれにこだわったのは、それが彼女にとってヒーロー・カルチャーへの参加を意味するものだったからではないか。

学者であるジェーンは常に知的に振る舞い、ソーはそこに惚れたわけだが、「全能の街」で決めゼリフについてソーに相談する彼女は、まるで少女に戻ったかのようだった。それは、ドラマ「ホークアイ」でヒーロー名のアイデアを熱っぽく語るケイト・ビショップを思い出させた。
「このハンマーを喰らえ!」など様々な発案をするものの、ジェーン自身はイマイチしっくり来ていない。ソーが「ここで終わらせる」との決めゼリフを持っていると知ると、キラキラした目でソーを見る。スーパーヒーローになるという行為において、この異種カップルは、かつてないほどに同じ話題を共有することになったのだ。ソーとジェーンは改めて、互いの存在を誇らしく感じたことだろう。
しかし、ステージ4のガンを患うジェーンにとってヒーローに変身することとは、自らの余命との引き換え行為だった。ムジョルニアを使う間は健康な身体を得られるが、その代償として身体の免疫機能が破壊され、いよいよ症状は悪化する。ソーはジェーンを残してゴアとの再戦に向かったが、その苦境を悟ったジェーンはムジョルニアと共に加勢。それは文字通りの自殺行為だった。
ジェーンはソーと協力し、ゴアのネクロソードを破壊。これにより呪縛が解かれたゴアは、“永遠の門”にたどり着いたものの、“神々の殲滅”の願いを改め、娘の蘇生を具現化させることとなる。その頃、ジェーンは既に虫の息となっていた。ソーは、もはやゴアを倒すことに興味はなく、あるいは必要性がないと感じ、少しでもジェーンと過ごす時間を確保するため“愛”を選ぶ。
ソーの腕の中で死にゆくジェーンは最後に、良い決めゼリフを思いついちゃったと戯けてみせ、ソーだけに聞こえるよう耳打ちする。ソーも「それは最高だ」と笑い、ふたりは永遠の門の向こうで永遠の別れを迎える。
そこから、ジェーンの遺言にしたがって引き取ったゴアの娘と新生活を送るソーの姿が紹介され、映画はエンディングへと向かっていく。結局のところ、ジェーンがソーに伝えた“決めゼリフ”が何であったのかは明かされず、現時点で確証的な情報も存在しない。ファンの間では既に議論が交わされているが、有力視されているのがコミック「Mighty Thor Vol 3 #19」(2017)でジェーンが放った「お嬢さん、私のハンマーを喰らいたい?だったら……思いっきり喰らいつきな!(You wanna eat my hammer, lady? Then by all means… take a big bite!)」というものだ。
ソーとジェーンの最後は、あくまでも死別という悲劇的なものとなったが、“決めゼリフ”はジェーンがまだ元気だった頃の、ユーモアと愛嬌、喜びに満ちた愛しき思い出のカケラだ。これは映画館で鑑賞した観客ひとりひとりの心に配られ、いつか明かされるその日まで閃光を放ち続ける、『ラブ&サンダー』からのささやかな土産の品なのだろう。