スタイリッシュなSF作品『VANISH』レビュー【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】
“生きるとは、どういうことなのだろうか?”
畑井雄介監督『VANISH』そんな問いに真向から立ち向かう作品だ。
津田寛治が演じる死体処理を生業とするヤクザと、
松林慎司が演じる、生きるための秘密を抱えている男。
偶然にもヤクザは男の秘密を知ってしまい、
その日からふたりの”共存”生活がスタートする。

美しいこの世界を断片的に切り取る乾いた映像は
ふたりの男それぞれの孤独を際立たせる。
時間軸がブツブツと切り貼りされる構成は、
観ているこちらの不安感や、彼らの関係の不安定さを表しているようだ。
“生きるためには、食べなければいけない”
そこに男の”秘密”の要素が加わったとき、
当然とてつもない苦悩が生まれるのだが、終盤に起きたある”事件”によって、
なんとか折り合いをつけていたはずの男の中の均衡も崩れかける。
本作はそこで終わるのだが、これから男はどう生きていくのだろうか?
死体処理の男との関係は、どう変化していくのだろうか?
物語の先の先まで想像してしまう・・・・・・そんな広がりのある作品だった。

ただ、少し残念な点もあった。
ふたりに共通するのは、庇護すべき存在がいることであり、
その存在ゆえに、”生きる”ことを選択しているにすぎないほど
現実世界に希望が見いだせないということだ。
しかし、いかんせん”庇護すべき存在”の描写が弱い。
秘密を抱えた男に関しては、単純に息子らしいのでまだいいのだが、
死体処理の男に関しては、言葉で説明されるだけ。
正直、私だったら秘密を抱えた男の息子と
自分の娘(のように思っている存在)を一緒にいさせたくない。
(途中、実際にギクっとする眼差しで見つめている描写もあった)
生業として死体処理を行っている自分と、
“生きるため”に秘密を抱えている彼らとでは全然重さが違うし、
ましてや子供に自制心を求めることなど困難なことは
出会ったときの状況でも証明されているはずだ。
死体処理の男が、生活のために”共存”している中で
娘への不安がチラとでも脳裏をよぎる描写があれば、少し印象が違ったかもしれない。
また、ふたりのシーンに子供がいたりいなかったりするのも気になった。
もちろん”仕事中”はどこかに置いてきているにしても、
最後の”事件”が起きた後に子供が登場しないのは不自然だ。
“守るべき存在”とハッキリいっているのだから、まず子供を保護するはず。
また、非常に細かいのだが、抜け殻となった洋服が
どれも新品同様で全く汚れていないという点も気になった。
子供たちも含めた4人の物語として、もう一度観てみたい(できればもっと長編で)。
『VANISH』はそう思わせてくれる作品だった。
『VANISH』 (C)yusuke-hatai